霜降り明星・せいや初小説連載!
「奪われかけた青春をコントで取り返してみた」
連載3回目

奪われかけた青春をコントで取り返してみた

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

バラエティ番組や舞台、テレビドラマなどで大活躍中のお笑いコンビ・霜降り明星のせいやが、自身の高校時代の経験をベースにした小説『奪われかけた青春をコントで取り返してみた』をラフマガで好評連載中!
今回は第3回目、お弁当にまつわるお話を通じて中学生、高校生の皆さんにメッセージを贈ります。

第1回はコチラ
第2回はコチラ

『弁当ひとりでどう食べるか問題』

 教室で浮いている人間にとって最大の課題であり苦痛な時間、それは昼食である。これは休み時間よりきつい。
 グループを形成している人間にとっては確実にいちばん華やかな時間であるが、イシカワにとってはより孤独が浮き彫りになる時間である。
 しかし食べないわけにはいかない。ひとり弁当を開けるが、誰ともしゃべれないので、黙々と食べる。まるで、食を極めた達人のように。冷凍食品をまるで高級食材のように扱い、(おれは食を楽しんでいるんだ。誰もふれてくれるな)という雰囲気でごまかした。
 しかしいよいよ嫌がらせはエスカレートしだした。一軍男子グループの180センチを超えるガタイのいい坊主の男子が「集金でーす」と言いながら、おはしでイシカワの弁当に入っている唐揚げやウインナーといった主力のおかずを奪っていった。これをされると米とおかずのバランスが合わないので地味にキツイ。
 これが何日も続いたが、いよいよ耐えられなかったのは4回目の集金のとき。ふざけて米をひっくり返され床にばらまかれたのだ。これはさすがに笑えなかった。自分のことならなんでも耐えられてきたがこれは違う。これは親に申し訳ない。母さんが早起きをして炊いてくれた米を……とても悲しかった、とても腹が立った。母親も侮辱されているような気分になった。この日から教室で弁当を食べるのをやめた。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

 となると、弁当を食べる場所を探さなければならなかった。弁当を食べないという選択肢もあったが、親に「弁当をつくらないでいいよ」と伝える理由が思いつかなかった。なるべく誰にも見られずひとりで弁当を食べられる場所……それはすぐに思いついた。トイレの個室だ。ドラマのなかで「便所めし」なんかを見たことがあった。さっそく弁当を持って、個室に入って弁当を食べてみた。
(なるほど…)
 たしかに気分はよくないが、鍵もかけられるし、誰にも邪魔をされない鉄壁の城にさえ思えた。
 しかしその理論は覆された。隣の個室に人が入ってきたのだ。その瞬間、聞こえてきたのは「ブリュ、ブリュ」という音と、ものすごい勢いでアレが水にはねる音。音だけならまだしも、においがとにかく強烈だ。ご飯中に横でとんでもない「大」をされた。  
 ちなみにこの日のおかずのメニューは、唐揚げ、やきそば、そしてハンバーグ。どう見てもアレに見えてしまった。
(…なぜ今日に限って茶色が多いんだ…)
 いつもの弁当のオールスターズたちもここだけはアウェイゲームになってしまい、仕方なくトイレを撤退した。こうして弁当を食べる場所探しの旅は再び暗礁に乗り上げた。
 イシカワはトイレを飛び出し、いろんな場所を探した。

 理科室→薬品の独特のにおいで弁当がまずくなるので却下。
 グラウンドの端の木の裏→上級生のカップルがディープキスの練習をしていたので却下。
 体育館→先生にバレたとき、どう言い訳していいかわからないので却下。
 屋上の扉の前の階段→ダンス部が練習に来た時にめちゃくちゃビックリされたので却下。
 こうして、弁当を食べる場所探しの旅は続くのであった。
 運命の文化祭まであと77日。

霜降り明星・せいや

1992年9月13日生まれ。大阪府東大阪市出身。
2013年に相方・粗品と「霜降り明星」を結成。2018年には『M-1グランプリ』で大会最年少優勝を果たす。
舞台やバラエティ番組で活動する傍ら、ドラマ『テセウスの船』に出演するなど、幅広く活躍している。

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