俳優・星田英利が小説家デビュー! 渾身の初小説は「自分では抑えられないというか、勝手にうねって動いていって…」

ピン芸人「ほっしゃん。」として活躍したあとに俳優に転身し、映画やドラマ、舞台などで存在感を見せる星田英利が、今度は小説家としてデビューします! 9月3日(火)に初小説『くちを失くした蝶』(KADOKAWA)の発売を控える星田に特別インタビューを実施。小説執筆に挑戦した経緯や、作品にかけた思いなどをじっくりと語ってもらいました。

出典: FANY マガジン
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登場人物たちが動き出した

『くちを失くした蝶』の主人公は女子高校生の竹下ミコト。離婚したシングルマザーの母親に子育てを放棄され、極貧を理由にクラスメイトにいじめられるようになったミコトは人生に絶望し、18歳の誕生日に命を絶つ決意をします。しかし、ある出会いから再びミコトの人生が動き出し……。

――『くちを失くした蝶』の出版、おめでとうございます。どのような経緯で小説を書き始めたか教えてください。

執筆を始めたのは、コロナ禍の時期でした。緊急事態宣言が発令されて、外に出られなくなって……。僕は東京で単身赴任をしているので、家族とも会えなくて、1人でずっと家にいました。

仕事もないですし、精神的にも、経済的にも追い込まれて、絶対にダメなことなんですけど、「死」というのが頭をよぎった瞬間があったんです。それから逃げるために、筆を執ったみたいな感じでしたね。寝ようとしても目が覚めてしまうし、もがくようにして、執筆に没頭していました。

――構想自体は以前から持っていたのですか?

いや、構想はまったくなくて、ゼロからのスタートでした。出版が決まっていたとかでもなく、妻や子どもに何かを残したい、その内容は漠然としているんですが、自分の足跡みたいなものを残したいという思いで書き始めました。

最後はこういうふうになるんやろうな……と思いながら書き進めていると、いつの間にか違う方向に物語が動いたり、そのあとでまたこっちに戻って……みたいな感じで執筆は進みました。

そもそも何も考えず、ゴールを設定せずにスタートしたので、書きあがったときには「考えていたのと違う」というのではなく、「登場人物たちが思い思いに動いた結果、こういう結末になったんやな」という感覚でした。

出典: FANY マガジン
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僕の中では全員が主人公

――ミコトをはじめとする登場人物たちが、星田さんと一緒に動いている感じですか?

一緒に動いているというより、彼らが動いているのを僕がそばで見て、レポートした感じですね。

結末は言えないですが、いわゆるハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、僕の中では何が正解かわからないですし、それは誰もわからないですよね。「頑張ろうぜ」とエールを送るつもりでもなかったです。

――となると、「こんな人に読んでほしい」という読者ターゲットも、きっちりと設定しているわけではなく……?

そうですね。ミコトのような年代、生い立ちの方にも読んでほしいですし、いじめっ子の側だった方にも、ミコトと違って裕福だった方にも、またミコトの母親と同じシングルマザーやシングルファザーの方にも読んでほしい。僕の中ではみんなが主人公なので、性別、年代など、いろんな層の方に読んでもらって感想を聞きたいです。

「…」に込めた“間”の表現

――初の小説を書くにあたって、誰かに相談しましたか?

いや、まずは1人で書き上げてしまって、「なんかできたわー」ってマネージャーに渡したら、「これ出版しましょう!」とそこからいろいろかけあってくれて、角川さんが出版を決めてくれたという経緯なので、執筆の段階で誰かに相談することはなかったですね。

ただ、正式に出版が決まってからは、小説のいろいろなルールを教えてもらいました。そのうえで、いっぱいムリを聞いてもらったりはしましたね。

『くちを失くした蝶』の中では3点リーダー(…)を多用しているんですけど、それは通常、小説ではしないことらしいんですよ。でも僕の中では、ちょっと脚本みたいなところがあって、僕が頭の中で演じるとおりに読者に伝えたいというか……。読んでいる人に間を任せるのではなく、こういう記号を使うことで、僕が考える“間”を正確に伝えたいというこだわりがありました。

プロの小説家の方は、「沈黙が包んだ」みたいな表現を駆使して伝えられるんでしょうけど、それよりも直に伝わる方法として、三点リーダーを多用させてもらって。だから、ちょっと素人っぽさが出ているかも知れませんが、譲りたくないこだわりでした。

出典: FANY マガジン
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――ほかに、作品の中でこだわった部分はありますか?

つじつまだけはズレないようにやろうと決意して書きました。そのへんは神経質なんです。出版が決まっているわけではなかったし、誰が読むわけでもないのに。だからこそ、時系列とかのつじつまは絶対に合うように、ミスがないように、そういうことは自分に課していた感じがありましたね。

「星田英利」を忘れて読んでほしい

――実際に本が完成して発売を待っている、いまの気持ちはどうですか?

まず、もちろん嬉しいです! こうやって自分の名前が刻まれた本が出版されるなんて、夢みたいですよ。ただ、ひとつ不安があって、もしかすると、僕が書いた本だということで、手に取らないという方も少なくないだろうなと。もしくは、読んでくれたとしても、僕というフィルターがジャマをして、迷惑をかけちゃうことがあるだろうと思うんです。

そうならないように、本当は「星田英利」という名前を出さずに出版してほしいとお願いしました。読者の方には、ストレートにこの人ら(登場人物たち)に会ってほしかったんです。でも、そうするとこういう(インタビューの)機会もないわけですし、宣伝方法も限られてくると言われて断念しました。だから、この本を手にとってくださった方には、僕のことを忘れて、ミコトたちに会ってあげてほしいんです。

――ピース・又吉直樹さんがお笑い芸人を主人公に『火花』を書いたように、自身に近い世界の話を書こうとは思いせんでしたか?

僕は完全フィクションでよかったと思っています。自分のことを書くのはいつでもできるし、僕の性格だとなんとなく気恥ずかしいんですよ。また、自分を捨てて、まったく別のものにすがりたかったという気持ちもあったのだと思います。

6歳の娘が題字を担当

――ご家族や友人は、もう読みましたか?

俳優仲間や世話になった方には報告しますし、その中で本が好きな方を選んで配ろうと思います。(本が好きじゃないと)配っても読まないじゃないですか(笑)。

家族には言うてないですね。まだ身内には読ませていないです。いわゆるタレント本ではないので、勝手に手に取ってほしいという思いがあって……。

ただ、タイトルは6歳の娘に書かせました! 何に使うかも、タイトルの意味も言わず、「とにかく、この通りに書いて」って。ミコトが小さいときに書いたようなイメージにしたいと思ったんですよね。10枚くらい書かせたら、「これで蝶という字も覚えた」って言うてたな。

――拝読しましたが、映画やドラマなど、映像化に適した作品だと思いました。

そうなったら、ここに出ている人(登場人物)たちが“売れる”ためには、僕はマネージャーとして何でもします! 僕自身なんかどうでもいいので、まずはこの人たちを知ってほしい。

いい人はいいところだけじゃないし、悪い人は悪いだけじゃない。僕の中ではミコトが正義でもないし、誰がいいとも、誰が悪いとも思わない。誰が頑張っているというわけでもなく、みんな頑張っているし……とかいろいろなことがあるんですが、そういうのは投げっぱなしです。読者の方がどう捉えてくれるかに委ねたいですね。

出典: FANY マガジン
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執筆しながら「この先、どうなるんやろう」

――執筆作業は楽しかったですか?

実は、いまも書いていますし、(『口を失くした蝶』執筆時も)同時にいろいろなものを書いていたんですけど、楽しいです。自分では抑えられないというか、(物語が)勝手にうねって動いていくので、自分がプロデュースできないことが楽しいですね。僕も読者の感覚というか、「この先どうなるんやろ、こいつ」って思いながら書いていました。

――次の作品も期待できそうですね。

いやー、出していただけるなら、どんなかたちでもという感じです。多くの方に、本に親しんでほしいですね

――最後に、発売を楽しみにしている人にメッセージをお願いします。

タレント本ではありません。僕が何も経験したことがない完全フィクションなので、とにかく「星田英利」というフィルターは外して、ミコトたちの物語を楽しんでほしいですね。

書籍概要

『くちを失くした蝶』
著者:星田英利
発売日:2024年9月3日(火)
定価:1,760円(本体1,600円+税)
頁数:224頁
出版:KADOKAWA

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