手話の資格をもつ吉本新喜劇の筒井亜由貴によるリーダー公演『手話新喜劇』が、12月21日(土)に大阪・新世界ZAZA HOUSEで開催されました。これは新喜劇と手話が始めてコラボした、いままでにないステージ。一般社団法人「手話エンターテイメント発信団oioi」と協力して作り上げた公演の模様を、芸人ライターとして活動している新喜劇座員の祐代朗功がレポートします!
今別府直之の“ピュッ”を手話で表現!?
客席に座ると、舞台の右側に大型モニターが置かれているのが目に入ります。このモニターに出演者のセリフや、手話の翻訳をリアルタイムで表示。耳が聞こえない人や聞こえにくい人だけでなく、手話がわからない人も舞台を楽しめます。
この仕掛けは情報のバリアフリー化や「情報保障」(障がい者が得られるべき情報を保障すること)と呼ばれるもので、客席後方にスタンバイしているoioiの「情報保障チーム」の、たかこ、ゆっきー、ゆんがパソコンで対応しているんです。
まず筒井がステージに登場し、モニターや手話について観客に説明。当然、手話を交えて、通常の新喜劇では見られない光景です。筒井は2017年の「金の卵9個目オーディション」を経て吉本新喜劇に入団。コロナ禍に手話を始め、全国手話検定3級の資格を持っています
この日の新喜劇のタイトルは「幸せ、不幸せ、手話のせい?」。oioiからの出演者は、のぶ、りゅうじ、ちーたん、りょーじ、かん、めろんの6人。手話を駆使して座員たちと一緒に初の新喜劇に挑みます。
舞台は、ある聴覚特別支援学校の高等部の教室です。新人教師の筒井がいるところに、生徒役ののぶ、先輩教師のりゅうじが登場。手話を交えながら芝居をしていると、“手話ネーム”という言葉が出てきます。
手話ネームとはあだ名のようなものらしく、“のぶ”を“ドアノブ”で表現する例が紹介されました。そして自分の手話ネームをほしがった筒井が“小さい男”や“ハイヒール男”とイジられると、笑いが起きます。
用務員役の松元政唯は、慣れない手話を披露。校長役の今別府直之は、めろんと一緒に登場しました。手話をしない今別府の言葉をめろんが通訳します。今別府のギャグ“ピュッ”が飛び出すと、困惑するめろんの姿に客席から笑いが。すると今別府が、めろんに「あなたのほうが面白い!」「みんな、あなたを見ていた!」と“嫉妬”して、観客は大笑いです。
手話ならではの魅力が詰まった新喜劇
生徒役のりょーじとかんが登場し、若者特有の手話を紹介。たとえば、“ヤ”と“倍”を合わせて“ヤバい”を表現するそうです。
続けてのぶが、早く走る方法を筒井に質問。実は、耳が聞こえない人はスタートのタイミングがわからないため、体をタッチされてスタートします。のぶが走るのが遅いのは、タッチされるタイミングが遅く、スタートが遅れていたというオチでした。
りゅうじを中心に、リズムに合わせて手話をする「ハンドビート」を体験するコーナーも。賑やかな音楽と派手な照明が会場を包み、りゅうじに合わせて会場全体が一体に! まるで音楽ライブのような盛り上がりです。
筒井は、登場した女性教師役のちーたんに愛の告白。しかし筒井は手話を間違えてしまい、ちーたんに対して“変態”“微妙”などと最低な言葉を連発して怒られます。
ここで借金取りのタックルながい。が出てきて通訳のめろんを人質に。手話がわからないタックルは通訳なしでは意思疎通できず、人質をちーたんと交換。その後、タックルが手話に気をとられているスキに、みんなで袋叩きにして退治しました。
事件解決後、筒井がちーたんに再び愛の告白し、今度は成功。ただし遠くから覗いてた生徒たちには、手話で内容が筒抜けでした。最後は、筒井が再び手話を間違えてちーたんに怒られるシーンでエンディング。手話でしか表現できない新喜劇でした。
聞こえない演者のための工夫も
舞台上ではアフタートークが行われ、oioiについて発信してきたジャーナリストの大谷邦郎氏が登場しました。大谷氏は、耳の聞こえない演者は、手話をしない人の発言内容を理解するために口の動きを見ていると説明します。
今回の舞台では、役者同士の口や手話が見えるための立ち位置に苦労したようで、通常の新喜劇では稽古は1回だけですが、何回もやり直したそうです。また、どうしても見えない位置にいる人には、背中を叩いてタイミングを知らせるというテクニックもあるとか。
筒井は、手話新喜劇について「全国の耳が聞こえない人、聞こえる人の両方に興味を持ってもらいたい」と語ります。そして最後は手話で“新喜劇”と表現し、筒井の12月25日の誕生日の前祝いをして公演は終了しました。
全国の皆さん、手話新喜劇はいかがでしょうか!