10月17日(日)、よしもと祇園花月では、『遊撃〜「多十郎殉愛記」外伝〜』が上映され、中島貞夫監督、本作を撮影した松原龍弥監督が舞台挨拶を行いました。この作品は、中島監督のおよそ20年ぶりとなる劇映画『多十郎殉愛記』の撮影から公開、その後までを追ったドキュメンタリー。松原監督はまず客席に、そして作品に協力してくれた人、中島監督にも改めて礼を述べました。
名監督に密着したドキュメンタリー
中島監督は、彼が撮り出したとき、いつまでどれくらい撮るのかと思っていたら、延々と予想を遥かに超えていたと振り返り、ある部分すげえことをしてるなと脱帽していた心境を語りました。そして「ほかの仕事せんでもいいのかな」と心配していたことを明かすと会場からは笑いも。さらに作品は松原監督が撮影した10分の1以下、これの10倍以上回っていると話し、ある種の執念みたいなものがある、今回の仕事に対する姿勢とできあがりに当事者でありながら感謝を申し上げたい、ありがとう、と松原監督に伝えると、会場からは拍手が起こりました。
元々「多十郎殉愛記」にはメイキングカメラマンとして携わっていたという松原監督。撮影しているうちに、これをひとつの形にできないかという話になったとのこと。松原監督は、撮影後にも中島監督が気になっていた、そしてこの作品がどういうリアクションを収めるのかを見てみたい気持ちもあった、と回想。期間的には2018年3月から3年以上、やるならとことんという意識はあったと話し、中島監督の思い、スタッフのその後なども形にして残したいと思って撮り続けたことを明かしました。撮影される側になった中島監督は、松原監督の姿勢を見ていて、「もうまな板の上にのった方がいい」と思ったそうで、ふっと気がつくと撮られている、生殺与奪を委ねてしまっている、それは彼に対するものすごい信頼、その結果が今日の作品になっていると話しました。
印象深いシーンを問われた松原監督は、中島監督が杖をつきながら急なガケを登っていくところを挙げ、自身も登るのが難しい場所を中島監督が登っていく、そして登ったらタバコを口にする、そのバイタリティ、姿を見ているだけでカッコいいとコメント。そういうものを見続けるなかで、いい経験と糧をいただいたと改めて感謝していました。
中島監督の次回作は……
続いて、中島監督は期待される次回作について「はっきり言って展望はない」ときっぱり。しかし「これから自分はどう生きていくのか、やることといったら映画を作るしかない、ほかに能がない、少し時間が立ったら、なんかまたごそごそしたくなるんだろうな、なったところで考えます」と今後について語りました。さらに若い人たちもみんな作りたい、作ろうとしている、とこれからの世代についても言及。そういう若い人たちが必死になって考えてくれている、捨てたもんじゃないとエールを送りました。
松原監督は今後の自身の活動について、この作品をこれから多くの方に見ていただきたい、と改めてアピール。その公開に向けての努力が必要と話し、実は9月23日まで撮影を続けていたことを明かしたあと、そこまで長いお付き合いをさせていただいて、お言葉、映画への姿勢を今後生かしていくことが中島監督への恩返しと思っていると語りました。中島監督も松原監督について、その仕事ぶりから生き方が痛いほどわかる、彼はいいものを作ってくれると信じている、と太鼓判を押していました。
フォトセッションのあと、松原監督は改めて礼を述べ、より多くの方に観ていただいて、中島監督の映画を作る姿を映像を通して皆さんに響かせたい、公開までの努力は必要ですが、ぜひともよろしくお願いします!、と力を込めました。
中島監督は、(この作品の)被写体はあんまりよくないですけど、作品そのものはいい、被写体が言ってるんだから間違いありませんと笑わせたあと、今の映画作りの状況、時代、京都という風土のなかでの変化など、考えることがいろいろとあるとコメント。そして、この作品がひとつの出発点になってくれればと話し、忌憚のない意見を皆さんからお聞きしたいと締めくくりました。