ベテラン漫才コンビ・はりけ~んず(前田登、新井義幸)が、結成36年目にして初の自伝的エッセイ『前説芸人―主役になれなくても腐らずにしぶとく生きていく―』(ヨシモトブックス)を6月26日(金)に刊行します。人気番組の前説や賞レース予選のMCなど、長年にわたって番組や舞台の“主役”を支え続けてきた2人。今回は銀座7丁目劇場時代からの後輩・タケトを交え、本書の読みどころや仕事にかける思い、ベスト4入りを果たした『THE SECOND 2025』でつかんだ新しい漫才の形など、たっぷり話を聞きました。

芸人のカッコよさが詰まった1冊
──今回刊行されるのは、おふたりの子ども時代から現在に至るまでの歩みをつづった自伝的エッセイ本です。銀座7丁目劇場で極楽とんぼ、ロンドンブーツ1号2号、ココリコらと切磋琢磨した日々、東京吉本が大きくなっていく過程、そして、主役ではない場所でも腐らずに歩み続けてきた2人のしぶとくも清々しい芸人人生がつづられています。この本を出すことになった経緯を教えてください。
前田 昨年、『THE SECOND 2025』で決勝に行ったときに、吉本興業の岡本(昭彦)社長と会食をさせていただいたんです。そこで僕らが「こんなことをやってきたんです」と喋っていたら、「それ、おもろいな。本を出してや」と言っていただいて。その場だけの話かと思ったら、数カ月後にほんまにつくっていただけることになりました。
新井 そうです。社長の提案なんです。
前田 本の内容は、インタビュー形式で聞かれたことに答えているんですけど。僕は取材中も、「ほんまに出すのかな?」と思っていました。この世界がヘンに長いから、途中で消える話も多いじゃないですか。半信半疑で答えていましたね(笑)。

──タケトさんは本を読んで、印象に残ったことはありますか。
タケト おふたりは前説や『M-1グランプリ』『R-1グランプリ』の予選のMCを務めてきて、本当は自分がスポットライトを浴びたいのに、ずっと現場を支えてきてるじゃないですか。そこに芸人としてのカッコよさを感じましたね。そうやって、ずっとちゃんとやってきた人は、結局『THE SECOND』で結果を出すんだなというのを感じました。「オレはなにやってんのかな……」と思ってます。
新井 タケトも、立派やんか。
タケト いやー。読んで、「カッコいいな」って単純に思いました。
──『前説芸人』というタイトルや、副題の「主役になれなくても腐らずにしぶとく生きていく」というのも、おふたりの生き方のカッコよさを表しているように感じます。
タケト いいですよね。
新井 これはお任せしたんですよ。僕らが決めたんじゃなくて。
前田 全部お任せしたら、まさかの『前説芸人』というね(笑)。それなら、もっと前説の話をしとけばよかったなって。ほんまにたくさんしてきたから、パート2、パート3で入れようかなと思います。あと、裏帯はちょっと笑ってしまったんですけどね。
──裏帯の言葉は、「『主役を輝かせるためのMCだけで、家族を養い、家を買った』そんな芸人がいてもいいじゃないか」です。
一同 (笑)
前田 (MCだけで)買ったって言い切ってる(笑)。
タケト でも、漫才が面白くて、それで家族を養い、家を買ってるんですから。本当に僕からしたらイケてる人たちですよ。だって、東京に家を買うって成功者でしかないでしょう。
前田&新井 お前も買ったやん。
一同 (笑)
タケト でも、読んでいて、ここまで楽しかったんだろうなって思いましたよ。なんか「芸人さんってしんどいんじゃない?」みたいに言われるけど、そんなことでもないですよね。

新井 確かにね。
前田 「苦労して頑張って、『THE SECOND』の決勝に行ったんや」というストーリーではないですよ。ただ「ツイてないな」という話も入っているので、サブタイトルに「腐らず」というのが入ってるんちゃいますかね。
タケトが語る、はりけ~んずの「愛され力」
──おふたりは後輩から慕われていると、よく聞きます。
タケト マジで慕われています。賞レースに出ている子らは、「はりけ~んずさんがMCの日に出たい」って、みんな言いますね。
新井 よく、初めて会う他事務所の子にも、「いつもお世話になってます」と言われるんです。世話をした覚えはないのに。賞レースの予選でMCをやっているから、そう言ってくれるんですよね。
タケト はりけ~んずさんがMCの日は、ネタがやりやすいんですよ。あと、あまり話しかけないようにしてくれますよね。緊張してるし、時間を奪わないように。
前田 まあ、みんなネタ合わせをしてるしね。
タケト ただ、新井さんは、僕がトリオ時代に賞レースに出たとき、勝手に僕が緊張してると思って、抱きしめてきたんですよ。あれは、やめてほしいんですよ。本番前に触れられたくないんで(笑)。
新井 なんでえな(笑)。
前説があったから、芸人を続けられた
──はりけ~んずは結成36年目です。ずっと残り続けてこられた理由は何だと思いますか。
前田 それは、やっぱり前説でしょうね。おかげでメシを食えたので。僕はありがたいことに、24歳でバイトを辞められましたから。
新井 それなりにはいただいてたんで。これで収入がなかったら、続けられなかったと思います。
──前説は、難しい空気の現場もありましたか?
前田 昔はありましたね。いまレギュラーでは『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系)しかやってないんですけど、『鑑定団』はあったかいお客さんです。
新井 昔は結構ありましたよね。やばい空気感で、聞いてくれない感じ。
タケト 僕からしたら、『鑑定団』のお客さんがあったかいというのは、もう真逆の感覚でした。Bコース(※タケトがかつて組んでいたトリオ)のときにやったことがあるんですけど、年齢層が高くて、難しいんですよ。そこでめちゃくちゃウケてる2人はすごいんだなと、改めて思いましたね。
新井 『鑑定団』は、僕らが行けないときに、助っ人で何組か行ってくれるんですけど、みんな首をかしげて帰ってくるっていう(笑)。
タケト はりけ~んずの代わりに行って、手応えを感じた人はいないと思います。それをあったかい現場って言ってるから、すごい腕があるんですよ。
新井 たった1組、すゑひろがりずだけが「やりやすかったです」って言ってたけど(笑)。もう本当にみんな首をかしげてるね。

──前説でいちばん大切にしていることは何でしょうか。
前田 お客さんに不快感を与えない、嫌な思いをさせない。いまから主役が出てくるので、その前にちょっとでもリラックスさせて明るくする。だから、前説のときは、漫才のキャラと違いますよ。優しいただのお兄ちゃんみたいな感じです。ネタのときはガーガー言うタイプですけど。
新井 あと前説は、おじいちゃんおばあちゃんが多い現場もあるんで、ゆっくりしゃべったりもしますね。
タケト この本には、「前説で心がけてること」も書いていますよね。
『THE SECOND』で取り戻した“荒っぽい漫才”
──コンビを組んで36年のおふたりが、いまの若手芸人にアドバイスすることはありますか?
前田 僕はたまに言うのが、「漫才がうまいな」って言われだしたら注意せいよって。
タケト おお。
前田 「面白い」って言わせなあかんのです。「うまいね」っていうのは、もう完成されている。若手のオーディションで、完成されたものはいらないじゃないですか。僕ら自身も、「まだ成長すんねんな、新たな漫才ができるんや」って思ったのが『THE SECOND』でした。決勝に残って、自分の漫才がまた変わりましたから。
──どう変わったのでしょう?
前田 僕らも、年齢に合った感じでだんだん知らん間にゆっくりになって、おカネをもらうだけの漫才をやってた。それが、マシンガンズと戦って、ええ意味の荒っぽい漫才が帰ってきたんです。あいつらが刺激的で、荒っぽいから。
──マシンガンズに触発された?
前田 昔の自分と戦っているみたいで、自然に思い出したんです。だから『あしたのジョー』で言うと、ハリマオと戦ったときです。野生の相手と戦って、野生に帰る。もうジョーがジャンプして、口を殴るぐらいのね。
──それこそ、うまい漫才から面白い漫才に戻ったんですね。
前田 だから、いまの僕らの漫才はうまくないですよ。まわりも、「いまがいちばん速い漫才をやっている」と言ってくれます。NON STYLEの石田(明)にも「僕らが東京に出てきたときの、はりけ~んずさんに戻ってました」と言われましたから。

──タケトさんから見て、はりけ~んずの漫才の魅力はどんなところですか?
タケト やっぱりお客さんに向かっていくパワーを感じますよね。あと、どこまで決まっているのかがわからないです。「あれ、これネタに入ったのか?」ってプロでもわからない。“漫才は人と人の立ち話”ということを、本当に体現していると思いますよ。
前田 それはよく言われますね。「どこまでがネタなんだ」って。僕の中では、そう言っていただけるのがいちばん嬉しいです。
ビジネスマンにも刺さる“しぶとい生き方”
──最後に、この本をどういう人に読んでほしいですか。
前田 夢と希望を与える内容ではないですけど。でも、「長くやってると、ええこともあるよ」と伝えているので。同じ立場の芸人さんに読んでもらいたい。あとはお笑いオタクさんかな。
新井 そう。お笑い好きな方には読んでほしいですね。東京の吉本芸人が初めはこんな感じでやってたんだとか、東京吉本が徐々に大きくなっていく様子も書いてあるんで、資料的にもいいのかもしれないです。
タケト あとオレ、この本に書いてあるのは、世間の人の“あるある”なんじゃないかなと思います。例えば自分が考えたプロジェクトなのに、手柄はこの人のものになるの? とか、あるじゃないですか。そういう自分にスポットライトが当たっていない人も、真面目にやっていたらスポットライトを浴びるときが来るよってことが書いてあるんで。
新井 ありがとう!(笑)

前田 社長が「本を出してや」と言ってくださったときも、「中年に夢を与えるような話やん」とおっしゃってくださったんでね。同年代の方にも読んでいただければ。
タケト だから書店さんは、ビジネス書のとこに入れてほしいですね。ビジネスマンは「わかる」っていう人が多いと思います。本当に、刺さると思います。
新井 『7つの習慣』の横にこれを置いといてください。
一同 (笑)。
書籍概要
『前説芸人―主役になれなくても腐らずにしぶとく生きていく―』
著者:はりけ〜んず
発売日:2026年6月26日(金)
定価:1,700円(+税)
判型:四六版
頁数:200ページ
発行:ヨシモトブックス (発売:株式会社ワニブックス)
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4847076680
