霜降り明星・せいや初小説連載!
「奪われかけた青春をコントで取り返してみた」
連載5回目

奪われかけた青春をコントで取り返してみた

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

バラエティ番組や舞台、テレビドラマなどで大活躍中のお笑いコンビ・霜降り明星のせいやが、自身の高校時代の経験をベースにした小説『奪われかけた青春をコントで取り返してみた』をラフマガで好評連載中!
今回は第5回目、エスカレートするいじめは体をも蝕んでいきますが、母親とのある出来事がイシカワの心を奮い立たせます。

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『家族と心のフタ』

 イシカワはこういう状況でも、小学校から培ってきた持ち前の明るさでなんとか耐えてきた。いや正確には耐えてると思っていた。
 実は体と精神がSOSサインを出してきたのだ。なんと髪の毛がどんどん抜け出したのだ。いわゆる脱毛症。最初の小さな円形から始まりどんどんそれが多くなって繋がっていく脱毛症だった。皮膚科で診てもらうとこのまま脇の毛もまつ毛、あそこの毛すらもすべて抜けるという3段階ぐらい上の脱毛症だった。それほどに、イシカワ自身も気づかないうちに精神を蝕まれていたのである。いじめをいじめとせず、ずっといじられにするという、そのへこたれない精神があだとなり体に無理をさせたことでストレスとしてツケが回ってきたのである。
 どんどん髪の毛は抜け、親にも「学校を休んでほしい」と頼まれたが、イシカワは休まなかった。それどころか、帽子も被らなかった。通学中は帽子を被り、教室に入ると帽子を取った。なぜか帽子を被るのが嫌だった。(こいつらのせいで帽子を被らなければならないというのが嫌)というのもあったし、これで平然としていることで、自分のメンタルを見せつけるという意図もあった。
 しかし毛はどんどん抜け、その頃から「フリーザ様」というあだ名をつけられる。ドラゴンボールのフリーザ様の白と紫の、紫の部分ぐらいのでかいハゲができたからだ。しかしイシカワは覚悟を決め、フリーザ様をまっとうしようとした。休憩時間に一軍グループに「フリーザ、フリーザ!」と合唱されていじられても、毎回、ひとりずつに「殺しますよ、殺しますよ」と全部笑いで返した。「今日の私の持ち金(きん)は530000ですよ、ドドリアさんから電話なので失礼します、キエエエエ!」などフリーザギャグを量産した。
 しかしいくら自分が明るく振る舞っても、クリアできない難題があった。それは家族からの心配だ。イシカワは5人家族の長男で妹ふたり、母親はパート、父親はタイル屋、ごく普通の団地の子だった。今までクラスで上手くいっていないことをもちろん話したこともないし、肩にどれだけアザがあっても妹に隠れながら風呂に入ってごまかしたりした。しかしこの脱毛症は違う。明らかに隠せないのだ。
 母親と病院に行き、血を抜いてもらったり、いろんな検査をしたのち、薬を渡された。それは頭の細胞が毛根を刺激することで、毛根が死んでしまうのを防ぐために塗る薬だ。皮膚を無理やりかぶれさせてグジュグジュに荒れさせることで、攻撃性のある細胞の気をそっちにそらすというものだった。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

 この薬で厄介なのは自分で塗れないこと。風呂場で毎日母親に塗ってもらっていた。自分がこんな若さでハゲてしまったショックもあったが「人生ゲームだとしたら今ぜったい止まりたくないマスだよなぁ」と笑いながら家族にも気丈に振る舞った。しかしある晩、母に風呂場で薬を塗ってもらってるときに涙がぽたぽたと頭に落ちてきた。母親が泣いていた。生まれてはじめて見る母親の涙だった。いつも明るく強気でツッコんでくる母親が「なんであなたがこんな目にあわなきゃいけないの?」と言った。
 母親の泣き顔をはじめて目にし頭皮で涙を直で感じたイシカワは動揺した。そして気づいたら目から涙が溢れ出ていた。
──悔しくて、悔しくて涙が止まらなかった。今まで見て見ぬふりをしていた辛いものがすべて溢れてきた。いつもは明るいはずの母の涙で今まで頑丈に閉めていた心のフタみたいなものが外れた。妹たちも父親もみんな心配していた。素直な気持ちが溢れかえってきた。そこで改めて思った。
 (自分よりこの人たち、家族のためにこの状況を変えよう)
 イシカワは一晩真剣にどうこの状況を打破するか考えた。そこでこれしかないという方法を見つけた。
 運命の文化祭まであと63日。

霜降り明星・せいや

1992年9月13日生まれ。大阪府東大阪市出身。
2013年に相方・粗品と「霜降り明星」を結成。2018年には『M-1グランプリ』で大会最年少優勝を果たす。
舞台やバラエティ番組で活動する傍ら、ドラマ『テセウスの船』に出演するなど、幅広く活躍している。

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