霜降り明星・せいや初小説連載!
「奪われかけた青春をコントで取り返してみた」
連載6回目

奪われかけた青春をコントで取り返してみた

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

バラエティ番組や舞台、テレビドラマなどで大活躍中のお笑いコンビ・霜降り明星のせいやが、自身の高校時代の経験をベースにした小説『奪われかけた青春をコントで取り返してみた』をラフマガで好評連載中!
今回は第6回目、母親の涙がイシカワを動かした。いじめを跳ね返す決意をした。そして懸命にコントを考えるイシカワに頼もしい味方が登場します。

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『突破口』

 母親の涙を見て、決起し徹夜してイジメから脱却できる可能性がある案を思いついた。 秋になるとこの高校では1年のクラスが全員で劇をやって、名誉ある賞を争うひとつの大イベントがある。通称・文劇祭(ぶんげきさい)だ。この高校はこの文劇祭に力を入れており、他校からもかなりお客さんが来るぐらい有名だ。この文劇祭で優勝するとそのクラスは学校で一躍有名になるくらいだ。マリオでいうスターを獲った状態になる。
 イシカワは文化祭や学校のイベントの影響力を痛感している。中学3年のときに自分のアイデアでオリジナルのコントをしたことがあるからだ。そのとき思ったのは、どんな人間でもイベント中というのは輪の中に入るチャンスがあるということだ。イシカワは徹夜して6時間かけてコントの種となる設定をできるだけ出した。面白いかどうかは別として、いま自分がいじめに対抗できるものはこれしかなかった。
 気づいたら朝になっていたが疲労感はなかった。自分の中で目標ができたことで気持ちが吹っ切れた。朝が清々しくなった。学校へ自転車でペダルをこぎ向かっている自分の頭の中ではウルフルズの『笑えれば』という曲が流れていた。歌詞を口ずさみながら、後半は替え歌もしながら。今の状況に歌がぴったりだった。
 それから皮膚科に通いながら家に帰ると毎晩机にかじりついてコントの設定案を考えた。その中で候補となるひとつのコントの設定ができた。それが「リアル桃太郎」というコントだ。桃太郎は通常、おばあさんが川から桃を拾ってきて、おじいさんと桃を切ると子どもが生まれてきて「桃太郎」と名付けるという物語だが、この「リアル桃太郎」というコントは、拾ってきた桃から子どもが産まれたときに、おじいさんがおばあさんの不倫を普通に疑ってしまう。「桃から子どもが産まれるわけがない」というリアルな感情を入れるコントだ。そこからお供の探偵や弁護士や法律事務所が出てきて、おかしな方向に行くというコントだ。このコントがこれからの3年間を救う突破口になるかもしれない。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

 しかし問題は、このコントの面白さをどうクラスのみんなに伝えるか、スクールカースト最下位の状態からホームルームでプレゼンしてみんなの支持を集めなければいけない。これがいちばんの課題だった。そんなことを日々考えながら、例のごとくオアシスで弁当を食べていた。最近、オアシスには少し離れたところで、ひとりで弁当を食べる男子がいることに気づいた。それはヤマイというイシカワと同じ8組のクラスの生徒だった。ヤマイは野球部の体育会系でイジメられてはいなかったがクラスのイケイケな雰囲気に馴染めず一匹狼のような状態だった。優しい顔をしておりクラスでは珍しいアンチ黒川派だった。
 何日かはお互い会っても無視していたが、ある日ヤマイから近づいてきて話しかけてきた。「イシカワってハゲ治るの?」。急に聞くことか!と思ったが「たぶん治るよ!」と明るく返した。そこからふたりの会話が始まった。久しぶりに弁当を食べながら誰かと話した。久しく忘れてたが、ご飯のとき誰かと過ごすのがとても楽しいことを久しぶりに思い出した。
 イシカワはヤマイと話すのが楽しみでオアシスに通い、ヤマイもオアシスを気に入っていたようで頻繁に二人で弁当を食べた。
 ヤマイもお笑いが好きで漫才ブームなど古いお笑いにも詳しく、タモリといえば普通 『笑っていいとも!』なのに、「四カ国語麻雀だよな」という話題でも盛り上がれた。こいつになら文劇祭でやろうとしているコントの構想を話せるかもしれない、そう思うようになってきた。そしてこいつにならという思いでヤマイにまだ5割しかできていない「リアル桃太郎」のコントの構想を一気に話した。するとヤマイは予想の何倍も爆笑してくれた。なぜか泣きそうになった。初めてこの学校で笑ってもらえた。初めて誰かが認めてくれた。長かったけど、ひとり信頼できる人間がいるだけで、こんなに人生が変わるのかというくらい景色が明るくなった。ヤマイは「それプレゼンで勝ち取ろう! 自分で挙手してアイデアを話すのは不利だから俺が最初のきっかけとして他薦するよ」とまで言ってくれた。これは一番の課題だったプレゼンがどうにかなるかもしれない。そして何よりここにきてアツい仲間が加わった。文劇祭のプレゼンは来週だ。
 運命の文化祭まであと56日。

霜降り明星・せいや

1992年9月13日生まれ。大阪府東大阪市出身。
2013年に相方・粗品と「霜降り明星」を結成。2018年には『M-1グランプリ』で大会最年少優勝を果たす。
舞台やバラエティ番組で活動する傍ら、ドラマ『テセウスの船』に出演するなど、幅広く活躍している。

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