霜降り明星・せいや初小説連載!
「奪われかけた青春をコントで取り返してみた」
連載8回目

奪われかけた青春をコントで取り返してみた

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

バラエティ番組や舞台、テレビドラマなどで大活躍中のお笑いコンビ・霜降り明星のせいやが、自身の高校時代の経験をベースにした小説『奪われかけた青春をコントで取り返してみた』をFANYマガジンで好評連載中!
今回は第8回目、ヤマイの懸命のサポートにより、イシカワに大きなチャンスが巡ってきます。
そして懸命のプレゼンにより、クラスの空気は大きく変わることになるのです。

第1回はコチラ
第2回はコチラ
第3回はコチラ
第4回はコチラ
第5回はコチラ
第6回はコチラ
第7回はコチラ


『伝染する想い』

 ハゲている、もうすぐ学校を辞めるんじゃないかと思われていた生徒がここまでコントを考えられる奴なんだとクラスの女子も男子もそして黒川の取り巻き、黒川自身も驚いていた。
 明らかに空気が変わった。もうこうなったら止まらないイシカワはどんどんコントについて語る。後半で出てくる猿やキジではなく弁護士や公認会計士、そしてそれをわかりやすく俯瞰(ふかん)でツッコミを行う人間も必要だということ。オリジナルの脚本なのでクラスのほとんどの人間に配役を与えられるというメリット。
 女子たちの感触もかなり良かった。しかしここで黒川が黙っていない。「はいそこまで」と言い、教卓の前に出てきてイシカワが持ってきたコントの原稿用紙を破った。
「こんなハゲてる奴のアイデアでできるわけないだろう。とりあえず違う案で行こうぜ」。
 そう言ってイシカワに向いていた空気を無理やり切り裂いた。黒川にとっては恐怖だったのである。ここでイシカワの案が通ってしまうと、このクラスでの市民権がイシカワにしっかりと確保されてしまう。イシカワやヤマイなどを虐(しいた)げることでこのクラスでの地位を築いてきたようなものだから。ここは無理やりにでも潰したかったのである。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

 しかし一人の女子がついに口を開いた。
「そういうのもういいよ、イシカワ君のやつやりたい」。
 そう、クラスの数名は黒川の他人をいじめて自分の権力を誇示する行動に辟易(へきえき)としていたのだ。それを口火にヤマイも動く。
「こいつは頭から毛が抜け落ちてもひたむきに今日のためにずっと考えてきました、皆さんチャンスをください」。
 頭を下げながらヤマイは泣いていた。それを見てクラスの空気が固いものになった。リアル桃太郎で行きましょう。リアル桃太郎で行こう。そう皆が口々に言う。そしてついに、
「それではリアル桃太郎に決定で」
と学級委員長が拍手しながら言った。黒川の取り巻き数名以外は全員拍手した。
 先生が入ってきてこの結果に驚いていたが、本当に嬉しそうに「イシカワおめでとう、そしてよくやってくれた」と言いながら肩を叩いた。先生もイシカワのことがとても心配だったが、この状況をどうすることもできず歯がゆかったのだと思う。
 イシカワの目からは涙が溢れ出た。その涙は文劇祭が自分の案にできたからではなかった。ヤマイが涙を浮かべながら頭を下げてくれたことに対してだった。ヤマイはこちらを向きながらおめでとうと言っている。
 違うよヤマイ、お前なんだよ、お前がいてくれたからなんだよ。
 涙が止まらなかった。そうかこれが友達か、数はいらない。一人でいいんだ。胸を張って友達だと呼べる一人がいれば、こんなに人生が明るくなるんだ。温かい気持ちが身体中を駆け巡り、涙として出てきたのだ。こいつとは70歳になっても友達でいよう。そう思える貴重な瞬間だった。
 そしていよいよ文劇祭の準備が始まった。空気が明らかに変わった。ようやくイシカワがこのクラスの生徒になった気がした。イシカワの熱い想いがついにクラスに伝染しだしたのだ。
 運命の文化祭まであと42日。


次回は10月22日(金)公開です。


霜降り明星・せいや

1992年9月13日生まれ。大阪府東大阪市出身。
2013年に相方・粗品と「霜降り明星」を結成。2018年には『M-1グランプリ』で大会最年少優勝を果たす。
舞台やバラエティ番組で活動する傍ら、ドラマ『テセウスの船』に出演するなど、幅広く活躍している。

関連記事

関連ライブ