M-1のウラ側を知る4人が語る「チャンピオンの法則」と「松本人志の握手」

年末を彩る一大イベント『M-1グランプリ』には、知られざる影の立役者がいます。それは、くまだまさし、レギュラー(西川晃啓、松本康太)、バイク川崎バイク――決勝の前説を担当するスペシャルパフォーマーたちです。M-1のウラ側を見てきた彼らだからこそ知るファイナリストや審査員たちの「素顔」とは!? “M-1愛”あふれる4人に、その舞台裏を語ってもらいました。

出典: FANY マガジン
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例年と違った今回のM-1

――数年前から、くまだまさし、レギュラー、バイク川崎バイク(以下、BKB)という3組で『M-1』決勝の前説を担当していますが、場を盛り上げるために意識していることはありますか?

西川 いつもレギュラー、バイク、くまださんという順番で出ていますね。それと、現場ではスタッフの数が異常なので、僕らも緊張するんですよ。だから楽屋に入ったときに、この3組のメンタルやテンションを気持ちよく上げようと意識しています。ただ、(くまだとBKBが)タバコを吸うので、結局、僕ら(レギュラー)ふたりっきりの時間もあるという(笑)。

くまだ 僕は、お客さんの緊張を和らげるのはもちろん、前説をやる前にファイナリストさんの楽屋に行って、「みなさん、いまから(客席を)起こしてきます!」と挨拶するようにしています。それで、ファイナリストのみなさんの気持ちも盛り上げていますね。

松本 『M-1』という場に関しては、3組みんなが前説で単に“お笑い”をやればいいという場所ではないと思っているので、僕らレギュラーは場をゆるめつつ大会の説明をして、次にしっかりバトンを渡すことを意識しています。そこは、ほかの前説の現場とは違うところですね。

BKB 僕はとりあえず、最後に「ブンブン!」と言えば仕事は終わるので、最高のテンポと最高の間(ま)でやるように心がけています。でも、やっぱり年に1回なので慣れはしない。最高峰の大会のオープニングを担うというのは緊張もしますし、毎回、新鮮な気持ちでやらせていただいています。自分で言うのもなんですが、3組の“一枚岩感”がすごいなと思います。

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くまだ 今回は、おそらく2組とも「今年のお客さんは違うぞ」と感じたと思うんですよ。これまではにぎやかなお祭りっぽく、なにか言ったら「ワー!」と盛り上がるお客さんが多かったんですけど……。

松本 僕らは1発目なんで、出た瞬間にわかるんです。僕らが出ただけでも「ワー!」となる年もあるんですけど、今年は冷静でした。そこから火を起こすのが大変で……。説明もしながらなので、「今年はキツイかな」と思いつつやっていくと、終盤でようやく盛り上がってきて、BKBにバトンタッチできました。

BKB 昨年より男性客が多くて、ちょっと硬かったかもしれないですね。おもしろいことを言ったら笑ってくれるんで悪いことではないんですけど、初期テンションが高くなく、「キャー」みたいな盛り上がりがなかったように思います。

松本 (今年のトップバッターだった)カベポスター(永見大吾、浜田順平)がボケたときに、バッとウケたので「よかった! 僕らちゃんと仕事ができた!」と思えてうれしかったです。「ちゃんとネタも聞いてくれるし、お笑い大好きなお客さんたちやったんや」と安心しました。

BKB 今年の『M-1』の最大の功労者はカベポスターだと思います。漫才もめちゃくちゃおもしろかったし、お客さんも感度高くいてくれて安心しました。
やっぱり(前説からの)流れが関係するので、毎年、トップバッターの1発目のボケがウケたとき、僕ら3組で(労いの)握手をするという儀式があるんですよ。

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スペシャルパフォーマーの特権とは?

松本 くまださんは『M-1』にかける想いがアツい男なんです。現場の空気を味わうために、最終結果発表前に必ずセット裏に行く。そこには負けてしまったファイナリストがいるし、王者もステージから帰ってくるんですけど、くまださんは感極まって全員と握手をするんです。

BKB あれはくまださんの持つアツさですよね。

くまだ 優勝発表のとき袖で見させていただけるのが、僕らの特権かなと。

BKB くまださんが誘ってくれたから僕らも行くようになりました。自分ひとりやったら、気を遣って舞台袖には行けなかったと思うんですけど、よくよく考えたら僕らが袖にいるのは不自然ではない。(過去のファイナリストの)さらば青春の光(森田哲矢、東ブクロ)とか、ニューヨーク(嶋佐和也、屋敷裕政)とか友だちが出ているときもあるので、横から見ておけるのはキズナ的にもいい。くまださんには感謝しています。

松本 あそこは芸人、スタッフもアツくなる場所。おカネ払っても行けないところなんですよ。たとえば、高校生が参加する『ハイスクールマンザイ』でチャンピオンになった生徒に、副賞として生の現場に招待して、なおかつ裏も見せてあげたら、だいぶ考え方が変わると思います。

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BKB 今年、オモロいことありましたよね。(司会の)上戸彩さんが「発表はCMの後で!」と言ったあと、舞台では最終決戦の3組がコケるじゃないですか。映ってないのに袖でも残りの7組がコケてたんですよ。悔しさもあったと思うんですけど、切り替えてあの瞬間を楽しんでいるんやなって。

くまだ 特に今年はファイナリストが若返ったじゃないですか。僕とも芸歴が離れていて、言い方が悪いですが、正直、「感情が動かされないかな?」と思っていたんですけど……やっぱり動かされましたね~(笑)。
みなさんのことをはっきりは知らないんですけど、「いままで苦労して、いろんな努力をした」という姿が見えてきましたし、ウエストランド(井口浩之、河本太)の優勝や涙を見ていると、ついつい(感動を)もらってしまいます。

松本 くまださんが、いちばん決勝の空気を味わっていらっしゃいますよね?

くまだ (休止期間前の)旧『M-1』から参加しているので、現場に行った回数でいうと、松本(人志)さんや今田(耕司)さんに次いで、くまだまさしが3位だと思います。

西川 めっちゃオモロいな~(笑)。

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喫煙所で見せる敗者の葛藤

――これまでには、多くのM-1戦士たちのウラ側も見てきたと思います。

BKB 僕とくまださんは喫煙所にも行くので、負けた直後のファイナリストと会うこともあります。あれは貴重ですよね。

くまだ そこでは、芸人さんの葛藤とかいろんなものが見えるんです。「本気でやって負けたら、これだけ悔しいんだ!」というのを、若い漫才師さんに見せてあげたいです。

BKB 喫煙所で来年の話をしたりしていますよね。オズワルドの伊藤(俊介)は「違うな。これじゃないんだな」と話していました。

くまだ 僕のなかでは、ここ最近のチャンピオンのコンビの2人が、喫煙者と非喫煙者に分かれていると思っていて。ウエストランドも、錦鯉(長谷川雅紀 、渡辺隆)も、マヂカルラブリー(野田クリスタル、村上)も、1人は喫煙者でもう1人は非喫煙者。本当に失礼な話ですが、オズワルドが2人とも吸っているのを見たときは「アチャー!」と思いました。

西川 その法則おもしろいですね(笑)。来年、決勝発表されたとき、喫煙と非喫煙に分かれているか見ちゃいそう。

BKB 喫煙所で悲喜こもごもを見てきました。同期のアキナ・山名(文和)が、おもしろかったのに、本人的には手応えが思ったほどではなく、絡みもなんとなくうまくいかず、という年があったんですけど、出番終わって1分後にはもう喫煙所で頭抱えていましたから。「さっき全国のテレビに出ていたお前が、もうここにおんの?」みたいな。今年でいうと、ウエストランド・河本くんがいちばんタバコ吸っていましたね。

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BKBと握手した松本人志の「伏線回収」

――ファイナリストや審査員とコミュニケーションを取ることもあるんですか?

BKB 僕もくまださんの影響を受けているんで、優勝者が決まったあと、1発目に「おめでとうございます」と声をかけるようにしています。たとえば、マヂカルラブリーさんやったら、野田さんが半泣きで「続けてりゃ、こういうこともあるんだな」と一言。対する村上は「コンパしましょうよ!」って。コンビそれぞれカラーが違ってなんかいいなと思いました。ウエストランドの井口はサラッと「優勝できるもんなんですね……」と、信じられないという感じでした。

松本 そこはメディアでは見えへん部分よな。

くまだ 大会後、オレらが袖にいて、審査員の方たちが帰ってきたときのボソッと話す言葉がいいよね。旧『M-1』で、優勝目前で2位になったコンビについて、松本さんが「あいつらは来年獲れるからな」と言っていて……松本さんなりに葛藤があるんだと思いました。

BKB 今年も大会が終わって帰ってきたとき、松本さんが僕らのほうに向かって「今年はムズかった」って。だから、さや香(新山、石井)やロングコートダディ(堂前透、兎)の優勝もぜんぜんあったというか。

松本 僕らのほうには向いていたけど、誰に言うわけでもなくボソッとね。結果だけ見たら、ウエストランドは6票で大差やったけど、(審査員の)個々でいうとギリギリの戦いやったんでしょうね。

BKB これ余談なんですけど、今回の前説が終わったあと、僕、松本さんと握手しているんですよ。

西川 横で見てたよ。僕らがハケるとき、スタジオに入る審査員の方々とすれ違ったんですけど、先頭がバイクで僕が次で4人が端によけたら、松本さんがいちばん前にいたバイクに向かって「どうも、どうも」って握手して。

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BKB じつは、あれにはフリがあるんですよ。遡ること4カ月前。オレ、『キングオブコント』でも前説をやっているんですけど、くまださんに倣って大会後にファイナリストを待っていたら松本さんがいらっしゃって、「挨拶せな」と声をかけたんです。
後輩って、手を出して「この間はありがとうございました」と挨拶することがあるじゃないですか。そのとき、オレの右手が出過ぎていて、松本さんが「誰が握手するか!」ってツッコんでくれはったんです。それでまわりのスタッフさんが笑って、期せずしてオレが握手ボケした感じに。たった2秒の出来事だったんですけど、これをおそらく覚えてくれていたんだと思います。

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くまだ すごい!

BKB やっぱり天才というか。記憶力もエグい。

西川 オレ、めっちゃ恥ずいわ。「次、松本さんが握手来はる」と思ってスタンバイしてたもん。それなのに、スーッと行ってしまうから……来ると思うやん!

くまだ そうだろ?(笑) オレも両手で小道具を持っていたけど、片手に持ち直して握手待ってたんだから!

BKB (笑)。松本さんと握手できたので運気上がった気がします。幸運の「伏線回収」ですね!

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取材・文:浜瀬将樹

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