バラエティ番組や舞台、テレビドラマなどで大活躍中のお笑いコンビ・霜降り明星のせいやが、自身の高校時代の経験をベースにした小説『奪われかけた青春をコントで取り返してみた』をラフマガで好評連載中!
今回は第7回目、ヤマイという頼もしい仲間ができました。運命の文劇祭に向けてイシカワは努力を続けます。
そしていよいよプレゼンの日を迎えたのです!
第1回はコチラ
第2回はコチラ
第3回はコチラ
第4回はコチラ
第5回はコチラ
第6回はコチラ
『運命のプレゼン』
会話ができる友達が一人いるとこうも人生が明るくなるのかというぐらい、学校に行くのが楽しみになっていた。そして何より文劇祭でこの状況をひっくり返す、今はその目標を一人ではなく二人で目指せている、これはでかい。ドラクエなんかのRPGなんかでも一人仲間が増えただけでかなり冒険に幅が出る。まさにそんな感じだった。
そして文劇祭のプレゼンのホームルームが命運を分けるといってもいい。そこでイシカワはキング牧師ばりの大演説をかまさないといけないのだ。クラスで3軍扱いを受けてしかもフリーザの紫のところぐらいハゲているやつのアイデアなんかそう通らない。
オアシスでヤマイ相手に何度もリアル桃太郎のプレゼンの予行演習を行った。プレゼンで一番推したいところはオリジナルの脚本ということだ。他のクラス全8組のクラス、歴代のだいたいの演目がドラマやミュージカルをパロディーにしたりそのままやったりとかそういう類のものだった。
現にこのクラスで権力を持っている黒川は当時とても流行っていた『花より男子』をプレゼンで推そうと目論んでいた。そこを跳ね返して0からの設定のコントというすごさに気付かさなければならない。ここが最大の難関なのだ。
そしていよいよ運命のホームルーム、先生が外に出ると学級委員の生徒と書記係が前に出てみんなのアイデアを募りだした。色々な案が飛び交う。ポケモン、ワンピースのアニメ系からミュージカル系の映画、タイタニック、天使にラブソングをなど。しかしここで焦ってはいけない、イシカワのコントはしっかりと説明しないと伝わらないのだ。焦るな、焦るな。席の離れたヤマイもアイコンタクトでまだだという顔をしている。
そうすると真打ち登場かのように宿敵・黒川が動きだした。教卓の前まで行くと大きい字で花より男子と書いた。最悪なことにクラスが湧いた。女子の1軍グループも誰がヒロインをやるか楽しげに話し合いだした。まずい。すごく花より男子の空気だ。そして黒川がついに最後の言葉を放った。「じゃあこれで決定でいいよな?」。クラスのほとんどの人間が拍手してしまった。
終わった……。そんなことを考えていると一人の男子生徒が手を挙げて発言した。「ちょっと待って、噂では2組と4組も花より男子をやるらしいよ」。
……イシカワは心で叫んだ。きたーーーーーー!
クラスがものすごく白けた気がした。他のクラスと被っていると言われて気の進む者はいない。黒川も苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。完全に白紙に戻ったのだ。
クラスが一瞬沈黙になったかと思うと、その瞬間ヤマイが動いた。立ち上がって言った。「イシカワがオリジナルのコントを考えています」。
クラスがどよめいた。全員がイシカワの方を向いた。イシカワはここだと思い原稿用紙を7枚ほど取り出して、「とりあえずみんなに説明させてください」と力強く言い、教卓に向かった。前に出ていた黒川はイシカワのいつもと違う強気な態度に目を丸くし一度下がった。
イシカワは黒板にリアル桃太郎の文字を書いた。
「どういうことなのか説明します。普通の桃太郎は桃から生まれて鬼退治に行きますが、僕らのこのコントでは一旦おじいさんが桃から生まれた子をおばあさんが不倫したのではないかと疑います。そして最終的に裁判所などで争ったり、現代のリアルな抗争に発展していきます」。
イシカワはとても流暢にプレゼンできた。オアシスで何度もヤマイに向かって練習していたから。その努力がここで生きた。そしてさらに追い風、なんと最初のつかみの設定の話でクラスのみんなが笑った。初めてこのクラスで自分の存在が認識されたような気がした。
運命の文化祭まであと49日。
次回は10月15日(金)公開です。
霜降り明星・せいや
1992年9月13日生まれ。大阪府東大阪市出身。
2013年に相方・粗品と「霜降り明星」を結成。2018年には『M-1グランプリ』で大会最年少優勝を果たす。
舞台やバラエティ番組で活動する傍ら、ドラマ『テセウスの船』に出演するなど、幅広く活躍している。