人気お笑いコンビ・トット(多田智佑、桑原雅人)が、7月から3回にわたって他事務所の漫才師をゲストに招いたライブを開催し、全公演でチケットが即完売するほどの好評を博しました。すべては、今年を入れてあと2回のチャンスとなったM-1グランプリに向けた“武者修行”です。今回は、9月22日(金)に開催された3回目のライブの模様と、トットの2人が今年のM-1にかける思いを語ったインタビューをお届けします!
トット・多田×ストレッチーズ・福島の即興漫才も!
「3ヶ月連続事務所交流漫才ライブ『漫才強化計画』」の最終回は、東京・渋谷のヨシモト∞ホールが舞台です。第1回にマセキ芸能社のカナメストーン(山口誠、東峰零士)、第2回にサンミュージックのママタルト(檜原洋平、大鶴肥満)を招いたトットの2人。この日は、ケイダッシュステージのヤーレンズ(楢原真樹、出井隼之介)と、太田プロダクションのストレッチーズ(福島敏貴、高木貫太)という2組をゲストに迎えました。
3組がそれぞれ漫才を2本ずつ披露したあと、トリオを2つ組んで即興ネタをする予定でしたが、6本の漫才が終わった時点で終演まで残り5分! ネタが長かったヤーレンズが残りの4人から責められます。
時間がほとんどないなか、ストレッチーズ・福島が過去のシャッフル漫才でことごとく失敗してきたことが明らかに。次々に披露される福島の「シャッフル漫才苦手エピソード」に興味津々になるトットの2人。
と、ここでなぜか、トット・多田と福島が即興漫才を披露することになります。「遊園地」のお題で試してみましたが、観ていたほかのメンバーが口々にツッコむ仕上がりとなり、ライブは幕を閉じました――。
他事務所の芸人とのライブで学んだこと
ライブ終演後、トットの2人を直撃しました。
――「3ヶ月連続事務所交流漫才ライブ『漫才強化計画』」を開催した経緯を教えてください。
桑原 僕ら、M-1グランプリにかける思いは、いままでも強くあったんです。でも、ほとんど発信してなかった。「わざわざ言葉にしなくても、漫才を見てもらえたらわかってもらえる」と思っていたんです。でも2020年に上京して、自分たちからちゃんと発信していかないと、まず見てももらえないと感じました。
――ゲストは、どのように選んだんですか?
桑原 いつ決勝に行ってもおかしくないM-1戦士で、他事務所の方を呼ぼうと。
多田 僕ら、大阪から出てきてまだ3年で、特に東京の吉本以外の人たちとこれまでほとんど接点がなかったから、ぜひ一緒にやってみたいと思ったんです。
――7月から3回開催したライブに出演した4組のゲストの魅力や、学んだことを教えてください。
桑原 まず第1回ゲストのカナメストーンに感じたのは、やっぱりパワフルさ。僕らは、どうしても2人でゴチョゴチョしゃべってしまうような、控えめなところがあるんですよね。でもカナメストーンの2人は「オレたちを見てくれ!」というパワーがすごい。
多田 カナメストーンにしかできないテンポの気持ちよさがあるんですよ。登場したときのワクワク感が半端ないコンビですよね。
――第2回ゲストのママタルトはどうですか?
桑原 2人のテーマパーク感。マスコットとキャストの方が登場するような楽しさがありますよね。漫才って基本、コンビで言い合うことが多いじゃないですか。でもママタルトは2人のやさしい雰囲気がネタに出てる。でも、インパクトが強いんですよね。2人の漫才を見て「強い言葉じゃなくても、面白くできる方法があるんや」と思いました。
多田 ボケの大鶴肥満くんと即興漫才をやらせてもらいましたけど、あんな大きい人が隣に立つインパクトと安心感ったらなかったですよ。桑原と檜原くんの即興漫才を見てても、檜原くんは「なんでやねん」を使わずにフレーズを刺しにいける人なんです。あの独特なツッコミは勉強になりましたねえ。
――では3回目の、ストレッチーズとヤーレンズの魅力を教えてください。
桑原 ストレッチーズは作品性が高い。小説を読み切ったような感覚がある漫才ですよね。
多田 あの漫才、僕には絶対できないです。しっかりとしゃべって言葉を置いて、ぽんと押し出す。あれをやれてる高木くんは、ほんまにすごい。
桑原 時間が経つにつれて、ぐーっと笑いが増えていくもんな。
多田 そうそう。だから、お客さんは心地いいんですよ。福島くんのボケもすごいよな。
桑原 漫才にはボケる漫才と、ボケない漫才があるんですよ。福島くんはボケない漫才の最高峰。
多田 で、ボケる漫才の最高峰がヤーレンズ。あんなボケしか言わないヤツ、インディアンス・田渕章裕と楢原くらいちゃう?
桑原 ヤーレンズは昔から知ってるけど、基本は変わってないんですよ。でも、うまくなった。
多田 出井がすごいんですよ。ふつうならボケに「なんでやねん、◯◯やろ」と言うじゃないですか。でも、出井の場合は間をとることとか、体を動かすことでツッコんでるんですよ。楢原のボケに「えー?」とか言うことがツッコミになってる。ツッコミのバリエーションが多いんです。
桑原 ほんまに4組それぞれ違いがあって面白かった。もちろん知ってはいましたけど、一緒にライブをやって、即興漫才とかもしたことで、よりその魅力が感じられましたね。
多田 賞レースに向けた漫才ってどうしても、ぐっと力が入っちゃうじゃないですか。でもこの4組は、ずっと楽しそうにやってる。漫才ってそういうもんよな、と3回のイベントで再認識させてもらいましたね。
桑原 そう。僕らM-1になると、どうしてもいつもと違う感じになっちゃって、「M-1だけ弱い」とか言われたりしてたんですよ。でも4組と一緒にやったことで、改めて漫才を楽しまなきゃなと思えるようになりました。
有楽町シアターで磨かれた芸
――別のインタビューで、トットのおふたりは東京に来て漫才のスタイルを大きく変えたと話していましたね。
桑原 もちろん以前のスタイルのネタにも自信はあったんです。でも、それまでのネタは面白いけど、自分らがやらなくても面白いかもしれない漫才やった。
多田 それで上京後、3年前くらいから、互いの素の延長のようなしゃべくり漫才をやり始めたんですよ。最初は、ぜんぜん噛み合わなかったんです。でも、だんだん合うようになってきました。
桑原 昔の漫才より、いまの漫才のほうが断然やりやすいし、楽しいし、面白い。たとえウケない瞬間があっても、「この空気感が僕らなんで」という感じで舞台にいられるようになったのも大きいですね。
多田 お客さんの反応が弱くても、焦ることが減りました。
――その「素の延長」の漫才をやることになったのは、8月に閉館したよしもと有楽町シアターでGAGやうるとらブギーズといったメンバーたちと、素をむき出しにするようなライブを重ねた影響がありますか?
多田 めちゃくちゃありますね。
桑原 すごくあると思いますね。東京に来てみたら、やっぱり文化がぜんぜん違うんですよ。大阪時代はお客さんがいつも300人くらいいた。でも、東京ではときに10人のこともあるんです。300人もいれば笑いの傾向も見えるかもしれないけど、10人となると、その10人が笑わないからって「面白くない」とは判断しづらい。
その不確かさよりも、まわりの尊敬する芸人、ネタが強い芸人たちを笑かしに行くようになっちゃったんですよね。それまでほとんど交流のなかった囲碁将棋さんやタモンズ、ジェラードンとかが笑うことで自信が持てるようになった。そこで面白いと確信が持てるようになったものを、より外に見てもらおうと思ったのが今回のライブシリーズでもあったんですけど。
多田 スタイルを変えて最初はうまくいかなかったときも、まわりの芸人たちが「それはそれでええやん」とか「おもろいよ」と言ってくれたことで助けられたんですよ。ここ数年は、本当に修行みたいな時期でしたね。
あんまり客席の反応がないときも、たとえばタモンズ・大波(康平)が「あのときの多田さんの熱量がめっちゃ面白かったですね」とか言ってくれる。その言葉で「あ、間違ってないんや。そしたら、これをどうお客さんに伝わるまでに持っていくかや」と思えた。まわりの芸人さんに、自分らのよさを気づかせてもらえた感覚はあります。
桑原 どうしていいかわからない暗闇のなかで、昔から知ってるGAGとか、東京で出会った芸人たち、よくしてくれた社員さんが「こっちやで!」と光を灯してくれた感覚がありました。
「本当に自分らの漫才に自信が持てている」
――最後に、今年のM-1にかける意気込みをお願いします。
桑原 (突然、インタビュアーのように)どんなM-1にしたい?
多田 ぜったい緊張するのはわかってるんですよ。でも楽しみたい。そのために自信をもっとつけたい。そして決勝進出、優勝を果たしたいですね。
桑原 どんなM-1がイヤ?
多田 ガチガチで、記号のようにセリフを言うだけの漫才はイヤ。
桑原 いままでそうやったん?
多田 そういうときもあったな。自然体でやるというのが、いちばん重要かもしれないですね。
桑原 今回、吉本以外のコンビと交流させてもらったのは、自分らのM-1に繋がってくる?
多田 もちろん繋がってきますね。このライブを重ねたことも自信に繋がって、今年は以前よりもぐっと楽しい漫才ができるようになると思います。
桑原 わかった。まあ、僕としては……完全に仕上がってますんで、体調に気をつけて現場に行くだけです。
多田 すごいこと言うてるな。でも正直、これまでに比べたら本当に自分らの漫才に自信が持てているんで、今年のM-1は頑張りたいです。