「ただイライラしてムカついていた」野田クリスタルが振り返る芸人5年目の思い出【UNDER5 AWARD特別インタビュー】

芸歴5年目以内の超若手芸人のNo.1を決める賞レース『UNDER5 AWARD 2024』の決勝が、6月23日(日)に東京・ルミネtheよしもとで開催されます(FANYオンラインチケットで無料生配信)。
「芸歴5年目」といえば、自分たちの方向性に迷ったり、ウケない理由を悶々と考え続けたりするころ。いまでこそテレビにライブにと大活躍の先輩芸人たちも、芸歴5年目当時は、同じように試行錯誤の日々を過ごしていたのではないでしょうか――。ということで、今回は『M-1グランプリ2020』、『R-1ぐらんぷり2020』のチャンピオンで、今大会初の審査員を務めるマヂカルラブリー・野田クリスタルに“あのころ”を振り返ってもらいました。

出典: FANY マガジン
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「お笑いバブル」に乗り切れなかった

――野田さんのデビューは2002年ころ。5年目である2006年は、マヂラブ結成前の年で、ピン芸人として東京地下芸人の人たちとライブに出演していた時期です。当時、お笑い界はどんな状況だったのでしょうか?

テレビでは『エンタの神様』(日本テレビ系)全盛期で、「エンタを狙うか」「M-1を狙うか」の2択しかなかった時代ですね。いまよりもゴールデンでネタ番組が放送されていたので、ネタをつくらないと有名になれないし、平場(ネタ以外の部分)の強さなんてどうでもよかったときです。

「いまと違って」と言えること自体が平和なんですけど、一発屋がとにかく多かったんですよ。逆に言うと、いまは一発屋がなくなって、しっかりと腰を据えて芸人を見る時代になったな、と。より芸人の本質が評価されるから、それを5年目以内に求めるのはなかなか(酷で)ストイックだなと思います。

――当時は短い時間でネタを披露する時代でした。

それこそ出オチでいいというか。全体的に薄い笑いが流行った時代だったんですよね。だから一発屋が多かった。実力なんてなくていいし、“なんか”面白ければよかった(笑)。

――当時、野田さんは、そんなお笑いブームをどう見ていたんですか?

「オレも有名になりたいなあ」「羨ましいな。メシ食えてんだ」と思っていました。それまで地下で一緒にやっていた芸人がすぐにテレビに出られて、下克上がスゴかったんですよ。自分もお笑いバブルに乗っかりたかったですけど、まったく乗れなかったですね。

出典: FANY マガジン
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――M-1熱も高まっていた時代です。賞レースについては、どんな印象を抱いていたのでしょう?

マヂカルラブリーを結成してからの話にはなりますけど、僕らも無名ではあるけれど、最初に3回戦行って、次の年で準決勝で、敗者復活戦でけっこう盛り上がって……みたいな流れがあったんで、夢はあるなと思いました。あと当時のM-1は、いまよりも「途中経過」という意識が強かったんですよ。当時は「M-1に出て売れよう!」「テレビに出よう!」の思考が強いから、優勝したフットボールアワーさんもチュートリアルさんも、全員バラエティ強いじゃないですか。

でも、いまは賞レースで優勝すること自体がムズすぎて、大会に勝つために特化している芸人が多い。だから「途中経過なんだ」って思えないですよね。「思え!」というほうが残酷で、しょうがないですけど「頑張って優勝したけど、まだ途中なんだ」と思いようがない時代になっちゃいましたよね。

やる気にさせてくれた“あの先輩”の一言

――野田さんは、ピン芸人時代はどんなネタをしていたんですか?

『エンタの神様』形式で羅列っすね。いちばんよくやっていたのが「人間っていいな」と思うことをとにかく言っていくネタ。どこから見てもいい、この羅列型のネタがとにかく増えていたし、僕も量産していました。

――いわゆるインディーズライブに出ていて、「ここが居心地がいい」と思うことはなかったんですか?

当然、思っていましたね。全員、テレビに出ることを否定していた時代だったと思います。テレビに出ようとしてる人間をバカにしていました。

――ただ、内心では羨ましさもあったわけですね。

そうなんですよ。テレビに出る芸人をバカにしながらも、全員、『エンタの神様』を狙っている……という、いちばん気持ち悪い時代です。

――(笑)

みんな当時の話をしないのは、全員の動きが気持ち悪かったから(笑)。「お前あのとき、あんなネタしてたよな」と言われますから。とにかく全員、心が折れていた時代ですね。

――悩みも多かったでしょうね。

悩むというか、ずっとイライラしていました。「なんでこんなヤツが売れてんだよ」とか「なんでオレが評価されないんだよ」とか。ただ、ムカついていましたね。

それでも、やっぱりトガっているんで、(誰にも)相談しようとは思わなかった。ぶっちゃけ、お笑い人生で人に相談したことないです。自分で解決するから悩むし、イラ立つし、「人に話したらいいのに」とは思うんですけど……。自分では感情の起伏が激しい人間だと思いますね。

出典: FANY マガジン
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――そんな状況で芸人活動を続けるなかで、嬉しかった言葉はありますか?

芸人になって初めて褒められたのが、亡くなった(元フォークダンスDE成子坂​​、鼻エンジンの)村田渚さんの言葉ですね。本当に無名で、何も活躍していなかったときに、たまたま村田さんが僕のピンネタを見て、「こいつオモロいやん」と言っていただいたのが、いちばん嬉しかったです。やる気が出ましたね。

みんな仕上がっている「いまの若手」

――今回、『UNDER5​​』で初の審査員を務めるほか、いろいろな賞レースで審査員をしています。どんなところをポイントとして審査しているんですか?

「会場が盛り上がっているかどうか」ですかね。お客さんがロボットみたいにウケてるんじゃなくて、「のめり込んでいる」かどうか。ポイントでウケてはいるけど、盛り上がってるわけじゃなさそうだな、みたいなのは感じて審査していますね。

――5年目以内ということで、勢いを感じる才能が出てきそうです。

そうですね。「何をやってくるんだろう」というのが、ふつうの賞レースとは違うところで。「こんなことしてくるか」とか、逆に「これまでの歴史をこうなぞってくるのか」とか、いろんな意味で楽しみですね。

――野田さんの若手時代と、いまの5年目で違いを感じるところは?

僕らのときは「荒削りだけど面白い」だったんですけれども、いまはすでに仕上がっているなと思います。大学でお笑いをやってきた人たちとかに引っ張られて、みんな精度も上がっているというか。やっぱりお笑いって環境だと思うんで、環境がいいんだろうなっていう感じはしますね。戦略を練って勝ちに来ている気もします。

――野田さんの時代は、戦略を練っている人はいなかったんですか?

まったくいなかったですね。とりあえずニュアンス(笑)。芸人のものまねしているようなヤツしかいなくて、見たことあることしかやっていなかったです。だけど、いまは逆に見たことあるものを嫌ってる感じがしますよね。

出典: FANY マガジン
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「決勝なんて誰でも行く」くらいのつもりで挑む

――大会への期待を聞かせてください。

こうやって、グダグダ言っていますけど、それすらも超えてほしいです。単純に打ちのめしてほしいですね。

――そうした力や勢いを持っている後輩が出てくるのは、野田さん的にも嬉しいんじゃないですか?

そうですね。戦略もいいし、芸人芸人しているのもいいと思うんですけど、そういうのって、再現性が高いんですよ。再現性が高いってことは、新しく入ってくる人も模倣できちゃうじゃないですか。そうじゃなくて、再現性のないもの。「なんでこんなこと思いついたんだろう」と、こっちで理解できないものが来たときに、すっごいワクワクします。これに関しては、お笑い以外にないなって思うんですよ。改めて「やっぱりお笑いってすげえな」って思う瞬間ですね。

――若い人にしか伝わらないボケもあると思います。世代差というか……。

基本的に審査員って年齢が高いじゃないですか。R-1で田津原(理音)くんが優勝した(バトルカードの)開封動画のネタって、たぶん僕以外はわかんないんだろうなって感じたんですよ。僕がほかの審査員に気を使う必要はないので点数は入れたし、逆に僕がわからないものにいちいち点数をつける必要もない。これは僕の問題じゃなくて、僕を審査員にチョイスした大会のせいなんで(笑)。だから、そこは素直に点数をつけます。もちろん、わからないものに対して、ちゃんと理解できるような気づかいが放り込まれていたら点数はつけます。

――賞レース決勝経験者の野田さんから見て、決勝で大事なものとは何でしょう。

めちゃめちゃニュアンスですけど、「ビビること」じゃないですか。たとえば、僕は2017年のM-1で初めて賞レースの決勝にいったんですけど、そこでの達成感が強すぎて……。「あとは運ゲーだろ」と思って挑んだら最下位とっちゃったんで、やっぱり高みを目指すなら、「決勝なんて誰でも行くんだ」ぐらいのつもりで挑まないといけないなと思います。

出典: FANY マガジン
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『UNDER5』って、この先売れていくための“途中経過”なんで、「ここで満足してるようだったら売れねえぞ」ってつもりで挑んだら勝つかもしれないですよね。その先を見据えて挑んでるヤツは、僕も怖いです。ただ、こちらが危惧する必要なく、全員「途中経過だ」と思ってる可能性はあるなと思いますよ。

――野田さんも脅威を感じるとゾクゾクするんですか?

僕が審査員の立場でいるときは、いつも「こいつと戦うことになるんだな」と思いながら見ていますね。

3つの条件がそろったときに人は…

――改めて若手へのアドバイスをお願いします。

「僕がそうだったから」という話なんですけど、条件として「ヒマであること」「いまの状況に不満があること」「何がなんでも許せないヤツがいること」。この3つが全部そろったとき、人は異常行動を起こすんですよ。それがそろったとき、僕は誰とも楽屋でしゃべらず、急にプログラミングを始めて、急にマッチョになりました。

――(笑)

この異常行動ができる瞬間って、いましかないんですよ。自覚を持てないかもしれないですけど、いまやってるすべての行いは未来の命綱だと思うんで、その綱を編む行為をやめるべきじゃないと思います。何がどうなるかなんて本当にわかんないから、熱意があるならそこに進むしかない。

やっぱり、いまって視聴者がウソを見抜く時代じゃないですか。YouTubeでも「こいつウソついてるな」ってものは再生数がいかなくて、熱量あるものに再生数がいく。極端な話、キレイなドロ団子をつくる動画に100万回再生とかいく時代なんですよ。それは、そこに熱量があるからじゃないですか。ドロ団子つくって評価されるなら、いまみんながやっていることなんて、もっと評価されてもいいと思うんです。

漫才でもYouTubeでもなんでもいいんですけど、熱量を持ってやっているものについては、後ろめたさを感じる必要が1コもない気はしています。

取材・文・写真:浜瀬将樹

大会概要

「UNDER 5 AWARD2024」決勝戦
日程:2024年6月23日(日)19:30~21:00(予定)
会場:ルミネtheよしもと
(新宿区新宿3-38-2 ルミネ新宿店2 7階)
MC:ニューヨーク
審査員:
石田明(NON STYLE)
岩崎う大(かもめんたる)
長田庄平(チョコレートプラネット)
佐久間一行
哲夫(笑い飯)
野田クリスタル(マヂカルラブリー)
塙宣之(ナイツ)
※五十音順
特別出演:金魚番長(UNDER5AWARD2023王者)、OWV(大会スペシャルサポーター)
※大会テーマソング「Luminous」のスペシャルパフォーマンス映像も上映します。
決勝戦進出者:
家族チャーハン(吉本興業)
キャプテンバイソン(プロダクション人力舎)
清川雄司(吉本興業)
ぐろう(吉本興業)
例えば炎(吉本興業)
ツンツクツン万博(グレープカンパニー)
伝書鳩(吉本興業)
マーティー(吉本興業)
ライムギ(吉本興業)
※五十音順

<チケット情報>
【会場チケット】
前売り・当日券
一般発売:6月12日(水)10:00~
チケット販売:FANYチケット
【配信チケット】
無料生配信
※終了後、48時間の見逃し配信あり
チケット販売:FANY Online Ticket

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