「あの時代のアイデアのほうが“本当の自分”」ナイツ・塙が振り返る芸人5年目の思い出【UNDER5 AWARD特別インタビュー】

芸歴5年目以内の超若手芸人のNo.1を決める賞レース『UNDER5 AWARD 2024』の決勝が、6月23日(日)に東京・ルミネtheよしもとで開催されます(FANYオンラインチケットで無料生配信)。
「芸歴5年目」といえば、自分たちの方向性に迷ったり、ウケない理由を悶々と考え続けたりするころ。いまでこそテレビにライブにと大活躍の先輩芸人たちも、芸歴5年目当時は、同じように試行錯誤の日々を過ごしていたのではないでしょうか――。ということで、今回は昨年に引き続き、決勝の審査員を務めるナイツ・塙宣之​​​に“あのころ”を振り返ってもらいました。

出典: FANY マガジン
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M-1のおかげでできた「カタチ」

――ナイツさんは2000年に結成。5年目までのころ、コンビとしてどんな状況だったんですか?

1年目で僕が交通事故にあったので、1年半ぐらいは棒に振っていたんですよ。だから、実際に活動したのは、2001年8月ごろから。当時、(所属する)マセキ芸能社のライブに出ていたら、急に社長から「漫才協会に入れ」と言われて。2002年の年末に漫才協会に入り、内海桂子の弟子となりました。

マセキ芸能社に入ったときは、ライブでふるいにかけられて落とされて……それがイヤで、いろんな言い訳をして、そこから逃げていました。​​当時はライブでもまったくウケないし、M-1グランプリも全然ダメ。5年目が過ぎたころから、頑張ってネタを書き始めた感じでしたね。

――当初は、どのようにネタを作っていたんですか?

最初は、(相方の)土屋(伸之)​​とファミレスに行ってネタを作っていたんですけど、すぐに詰まっちゃって……。2人とも夜勤のバイトをしていたから、(バイトの時間になったら)終わらせるために「この前のM-1で笑い飯さんがこういうのをやっていたよね。じゃあ、そういう感じにしようか」ってネタを作る。だから結局、誰かっぽくなって何も色がなかったんです。

「それじゃダメだ」と思って、2006年ぐらいから1人でネタを作るようになりました。オレに何が作れるかな、と思ったときに、好きなものがいいと思ったので、野球のことを語るネタを作ったんです。最初にできたのが、(元プロ野球選手・監督の)野村克也を語るネタでした。そこで、こんな感じにひとつのカタチができたんです。

(ツッコミ)「野村克也さんの話もういいよ。みんなが興味のあるミスターチルドレンとかの話をしろよ」

(ボケ)「一茂、三奈​​が……」

(ツッコミ)「それミスターのチルドレンだろ!」

――(笑)

それが2006年ぐらい。でも、テレビもM-1も全然ダメで。 そこから「語る熱」を残しつつ、いままでボケなかったところを全部ボケに変えました。ただ、好きなのに間違えるのはおかしいから、「昨日インターネットでこの人を見つけた」ということにして、(M-1決勝で披露した)「ヤホー漫才」に辿り着けましたね。ネタをたくさん作ったからこそカタチができたので、本当、M-1のおかげなんですよ。

漫才に正攻法なんてない

――若手時代、内海桂子師匠から言われたことで印象に残っている言葉はありますか?

中田ダイマル・ラケットが拳闘漫才で裸になってネタをやっていたように、「むかしは『◯◯漫才』がたくさんあったのに、いまの時代は、みんな同じようにスーツを着て漫才をやるからつまんない」と。

僕らだって「ヤホー漫才」、ミルクボーイだって「行ったり来たり漫才」があって売れたわけで、別に正攻法で売れた人なんていないんですよ。(スタンダードな漫才を)勝手に正攻法だと思っているけど、もともと正攻法なんてないんですよね。ただ……桂子師匠は、ブツブツ言って動かないから、ヤホー漫才が大嫌いでしたけど。

出典: FANY マガジン
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――(笑)。塙さんの時代にはなかった若手が活躍できる大会『UNDER5』が昨年からスタートしました。​​

みんな面白いですよね。もう46歳にもなるとアイデアが生まれづらいというか、だんだんウソになってくるんですよ。だから、あの時代のアイデアのほうが「本当の自分」だと思っていて。

当時つくったのが、こんなネタ。

(ボケ)「うちの親がうるさいんですよ……『ただいま』、(大声で)『おかえりなさい!』」

(ツッコミ)「声がうるさいのかよ!」

それを今年に入ってやったら、めっちゃウケたんですね。うちの親がいま80歳だから、「80歳のおばあちゃんなのにうるさいんだ」が乗っかって、よりウケるようになって。

とろサーモンがM-1で優勝したネタも、とっくのむかしに準決勝で負けたときのネタだけど、当時よりうまくなっているから、より面白くなっていたじゃないですか。(年齢を重ねても)感性は変わらないし、(5年目以内は)むしろネタをいちばん作らなきゃいけない時期だと思います。バンバン作ったほうがいいと思いますね。

――賞レースに向けてネタが作れる環境があるというのは、若手にとってもいいことなんですね。

絶対そのほうがいいと思いますね。(売れるためには)「人間」とは言うんですけど、結局はネタで売れないといけないんですよ。やっぱりネタが面白くないと相手にされないから、ネタを早く作れる環境にしてあげたほうがいいと思いますね。

僕は7年目でようやく「ちゃんとネタを作んないとな」と気づけて、8年目でM-1決勝に出られたんで、1年目からふるいにかけられるぐらいのほうがいいんじゃないかな、と思います。そこで作れない人は、今後なかなか難しいんじゃないですかね。

こんなネタは…「僕は0点です」

――『UNDER5』出場者のなかで気になるコンビはいますか?

去年からの出場者だとキャプテンバイソンとかライムギが2年連続なので、やっぱり実力があるんでしょうね。しかも、(エントリー総数)2001組の中から勝ち上がってきてますから。

――塙さんは2年連続で審査員を務めます。審査をする際、どんなところを重要視していますか?

「その日、面白いかどうか」が審査基準になっちゃうんですけど、僕はそこにプラスして「こいつ、ふだんから面白いのかな」も気にしているところがありますね。本当は1年ぐらいそいつのことを見て、年間大賞を決めるほうが評価としては正しいと思うんですよ。このあいだ、西川のりお師匠もまったく同じこと言っていましたけどね。

――(笑)。塙さんも以前から思っていたことですもんね。

そうですね(笑)。なかなか1回の大会で判断するのは難しいですけど、(前回王者の)金魚番長は「こいつら今日だけじゃなくて、ふだんから面白いんだろうな」というのが、喋りとか安定感でもうわかったんです。

そういうところで僕は評価をしているので、ハプニングで笑いをとったり、前のコンビのことをイジったり、そこはあまり評価にはならないかもしれないですね。大相撲で言うと、本当の横綱になる人を選びたい。だから、僕はたぶん全然面白くないヤツを選ぶと思います。

出典: FANY マガジン
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――(笑)。たとえば、構成などもみるんですか?

「気にならない」と言えばウソになりますけど、「5年目だから」というのはありますね。だから、「それいるかな」「なんでこんなこと言ったんだろう」は気にしないほうがいいですよね。ただ、(ネタ時間の)4分ぐらいは1つのテーマでやってもらいたいな、とは思います。はじめにちょっと短いのでツカんで……とかでやられたら、もうその時点で僕は0点です。そんなヤツは評価に値しないですね(笑)。

――厳しい!(笑)

まあ、「できれば」ということなんですけどね。ただ、M-1で審査員をするときもそうなんですけど、僕、吉本の人間ではないですが、NGK(なんばグランド花月)の看板やトリをとれるような人を選びたいと思っているんですよ。どんなときでも、15分のネタで爆笑を取れる人を評価したいですね。

――たとえば「ポケモンが……」など、若手だとどうしてもジェネレーションギャップを感じるボケやたとえが出てくると思います。その場合は、どう審査するんですか?

人の名前や商品の名前を出さないほうがキレイなんでしょうけど、出さないで笑いを取るのって、けっこう難しいんですよ。だから僕らが知らないゲームとか名前が出てくることは想定していますし、自分が知らないからといって点数を下げようとも思わないですね。むしろ、こっちに合わせて『魁!!男塾』とか入れられても、「お前、読んでないだろ!」と思っちゃうから、それは等身大でやってもらえればいいのかなと思います。

ただ、そのなかの基準としては、たとえば芸人の名前を出すときに、まだ広く知られていないけど、お笑い好きなら知っている芸人の名前を出す……とかは個人的に好きじゃなくて。その選ぶセンスも問われるところじゃないですか。そこで、逆に損しなければいいなと思いますけどね。

ウエストランドって、むかしはわりと固有名詞を使っていたんですよ。たとえばYouTuberだったら、むかしは「ヒカルが……」とか、はっきり言っていたと思うんです。でも、そこに限界を感じたのか、ミュージシャンとか全体のことをツッコむようになったんですよね。進化したからこそM-1でも優勝できたと思うし、そのセンスって大事なところだと思います。

――賞レース決勝経験もある塙さんですが、決勝ではどんなことが大切になるのか、アドバイスがあれば聞きたいです。

M-1で優勝できなかった自分からアドバイスをするのであれば、やっぱり緊張しないほうがいいですね。すごく難しい話なんですけど、「たかが『UNDER5』」「こんな大会どうでもいいや」と思っていたほうがいい。M-1と同じ目線にしちゃうと緊張しちゃうんで、「ワケわからない1万円ぐらいのヘンな営業に来たな」くらいに思って、ナメた感じでやったほうがいいとは思います。 お笑いって緊張しないほうが絶対面白いんで。

本当に「いつも通り」というのがいちばん大事で、「レース前だからものすごく稽古をしよう」とかは思わないほうがいいし、いつものルーティーンでいったほうがいい。とんでもなく練習をするから、「失敗しちゃいけない」にもつながると思うんですよ。お笑いだからネタ飛んじゃっても、失敗しちゃってもいいんです。こっちはそこで点数下げないので。キレイでたくさん稽古をしたヤツを見せられても……とは思うので、ある程度、稽古をして、楽しい状態でやっていただければ、と思いますね。

取材・文・写真:浜瀬将樹

大会概要

「UNDER 5 AWARD2024」決勝戦
日程:2024年6月23日(日)19:30~21:00(予定)
会場:ルミネtheよしもと
(新宿区新宿3-38-2 ルミネ新宿店2 7階)
MC:ニューヨーク
審査員:
石田明(NON STYLE)
岩崎う大(かもめんたる)
長田庄平(チョコレートプラネット)
佐久間一行
哲夫(笑い飯)
野田クリスタル(マヂカルラブリー)
塙宣之(ナイツ)
※五十音順
特別出演:金魚番長(UNDER5AWARD2023王者)、OWV(大会スペシャルサポーター)
※大会テーマソング「Luminous」のスペシャルパフォーマンス映像も上映します。
決勝戦進出者:
家族チャーハン(吉本興業)
キャプテンバイソン(プロダクション人力舎)
清川雄司(吉本興業)
ぐろう(吉本興業)
例えば炎(吉本興業)
ツンツクツン万博(グレープカンパニー)
伝書鳩(吉本興業)
マーティー(吉本興業)
ライムギ(吉本興業)
※五十音順

<チケット情報>
【会場チケット】
前売り・当日券
一般発売:6月12日(水)10:00~
チケット販売:FANYチケット
【配信チケット】
無料生配信
※終了後、48時間の見逃し配信あり
チケット販売:FANY Online Ticket

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