霜降り明星・せいや初小説連載!
「奪われかけた青春をコントで取り返してみた」
連載11回目

奪われかけた青春をコントで取り返してみた

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

自身の高校時代の経験をベースに、今回は、日々ペンを握りしめながら、原稿を綴っています。『読売中高生新聞』の連載をFANYマガジンで追っかけ連載。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

バラエティ番組や舞台、テレビドラマなどで大活躍中のお笑いコンビ・霜降り明星のせいやが、自身の高校時代の経験をベースにした小説『奪われかけた青春をコントで取り返してみた』をFANYマガジンで好評連載中!
今回は第11回目、ついに文劇祭当日を迎えるイシカワとヤマイ、モリキー、そして新しく仲間入りしたシノハラの4人に最大の試練が立ちはだかります。

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文劇祭本番

 イシカワは新しいニット帽を新調して、いよいよ来週に迫った文劇祭に向けてラストスパートをかけていた。
 大道具の背景もおおよそ出来上がり、あとは細かい各々のセリフ合わせと音響のタイミングを合わせるだけだった。
オアシスでヤマイの個人練習をモリキーとイシカワ、そしてシノハラの4人で授業が始まる前の朝に、そして各々部活が終わってからの23時ぐらいまでずっと稽古をした。
 シノハラは照明を担当することになった。
 あの悲しい花より男子のシーンの件のあと、シノハラは黒川軍団の小林と「イシカワのニット帽を弁償しろ」という交渉をめぐって殴り合いのケンカにまで発展した。イシカワやヤマイ、モリキーはシノハラが顔を腫らした理由がそうであると知った時、4人目の熱い仲間として歓迎した。自分たちの中の聖地であるプール裏=オアシスに迎え入れたのである。
 イシカワにとって半年以上かかってやっと始まった高校生活のような気がして、とにかく楽しくて楽しくてたまらなかった。
 何をするにもお腹をかかえて笑い、暗くなると月に向かって練習したりなんかもした。その時の月はどんな満月より綺麗に見えた。高校生活で脱毛症になるぐらい追い詰められたけど、顔を上げ続ければこんな景色を見ることができるんだとニヤけながら自転車を立ち漕ぎして帰った。
 オアシスで4人が熱い練習をして、その熱がクラスにも伝わっていった。大道具チームも小道具チームもみんな当日までに完璧に背景などを仕上げてくれた。
 クラスでの最終リハーサルをイシカワが監督になって一度通してみた。みんなのセリフが辿々(たどだと)しくても、モリキーの作った音とイシカワのツッコミの回収があるので、クラスのみんなはとても手応えを感じていた。先生も大笑いしながら練習を見ていた。この雰囲気はいける! 賞を獲れる!
 しかしここで奇妙な違和感に襲われる出来事が起きる。あの黒川軍団が大道具係を当日担当したいと言い出したのだ。今までみんなの頑張りを見てきて自分たちだけ何もしてないのが恥ずかしいから、当日本番の大道具の背景のセッティングをさせてほしいと申し出てきたのだ。
 普通なら絶対にノーだ。今まで散々妨害をしてきた奴らを許してこの作品に携わられたくない。実際、シノハラは「ダメだ! あいつらを信用しきれない、イシカワ、やめとこう」と言った。
 しかしイシカワはここで黒川軍団を完全に仲間外れにし、蚊帳(かや)の外にすることで優越感を味わってしまうのはあいつらと変わらないのではと思った。
 今までやられたことを考えるとはらわたは煮え繰り返る。母親を泣かされ、今も皮膚科にずっと通わされている。でもこいつらを作品に携わらせることで初めて、文劇祭でこいつらの嫌がらせを跳ね除けたと言えるのではないか。そう考えた。そしてOKした。
 当日の大道具は黒川軍団に任せることになった。しかしこの判断が最大のミスであった。

イラスト:金井淳
出典: FANY マガジン

 そしてついに文劇祭当日。
 お客さんは満員、先生たちも楽しみにしており、他校からの生徒のお客さんもいっぱい来ていた。開演ブザーが鳴り、幕が上がる。最初のシーンでまず桃が流れてくるシーン、桃を横に切ろうとするというおばあさんのボケが最初のつかみ、1つ目の笑いどころ、そしてその後ろの背景は川、のはずだった。なぜか幕が開くとお客さんが意図していないところでザワつきだした。イシカワは舞台上にツッコミを入れるためのマイクのある位置から、つまり客席の横のほうから舞台を見てその光景に言葉を失った。
 おばあさんとおじいさんに扮した生徒の後ろの背景には本来描かれてあるはずの川ではなく、何も書いてない白い大きい紙に黒いスプレーの文字で『死ね』と大きく書いてあった。
 ざわつく体育館、フリーズする舞台上のヤマイ。一体どうなってしまうんだ。
 運命の文化祭まであと0日。


次回は12月10日(金)公開予定です。


霜降り明星・せいや

1992年9月13日生まれ。大阪府東大阪市出身。
2013年に相方・粗品と「霜降り明星」を結成。2018年には『M-1グランプリ』で大会最年少優勝を果たす。
舞台やバラエティ番組で活動する傍ら、ドラマ『テセウスの船』に出演するなど、幅広く活躍している。

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