「シュッと抜けて大監督になるかもしれない」『ユーフラジー=モンタージュ』『替え玉の男と女』舞台挨拶

4月15日(土)、「島ぜんぶでお~きな祭 第15回沖縄国際映画祭」期間中に、那覇市の桜坂劇場ホールCで、若手のクリエイター発掘コンペティション「クリエイターズ・ファクトリー」特集上映として、『ユーフラジー=モンタージュ』/『替え玉の男と女』の同時上映と舞台挨拶が開催されました。なお、どちらも「クリエイターズ・ファクトリー」に参加、受賞された監督の新作となります。MCは浦添ウインドゥの島智大が務めました。

人形と少女が旅するアニメ

最初の舞台挨拶は『ユーフラジー=モンタージュ』の大河聡監督が登場しました。本作は、アリカと呼ばれる人形とコゼットという少女が、「塔」を目指して旅をするアニメーション短編。滅びゆく世界と新世界の創造をめぐる独特の世界観が魅力です。

出典: FANY マガジン
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大河監督は「大阪芸術大学映像学科の卒業制作です。制作中は周囲から変な映画を作っているなと言われていたのですが…」と振り返りつつ、「新宿のK’s cinemaで上映したときは好印象な声を頂いた。いろんな人に刺さる映画だったのだなと」と意外な反応があったと話します。

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続いて、「クリエイターズ・ファクトリー」審査員長をつとめた中江裕司監督が登壇。大河監督との出会いについて「彼は4年ほど前に公募してくれた。デッサンを描いている不思議な映画。それでグランプリを取って、賞金を使って『赫丹物語』という人魚の映画を作りました。彼の作品で共通するのは、わけのわからないラストになるということ。今回の作品も、僕の世代では絶対作れないものを作るなと」と評価します。

出典: FANY マガジン
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劇中に登場する塔について中江監督から尋ねられると、大河監督は『世界観の設定として、この世にはいろんな世界がある、マルチバースですね。その世界の一つが滅んだら、新しい世界を作らないといけないというのがルール。それを作るのがコゼット。そして一つの儀式を統括するのがあの塔です』と説明。さらに「僕はヴィクトル・ユーゴーが好きで、人間を描くことに興味がある。映画にとって一番大事なこと。一方、アニメは線と色で構成されたもので生身の人間は一人も出てこない。逆説的に、そこでどれだけ人間が描けるのかトライした」と、アニメ表現に挑戦した理由について説明しました。

質問タイムでは「クリエイターズ・ファクトリー」出身で『愛のゆくえ』でプロデビューを果たした宮嶋風花監督が挙手。「大河監督はたくさんアニメを見ていたはず。『輪るピングドラム』の幾原邦彦監督がお好きでは?」と尋ねると、大河監督は「バレましたか」と苦笑しつつ、「一番好きなアニメは『少女革命ウテナ』。構図的な意味でマカロニ・ウエスタン。他にアンゲロプロス、タルコフスキーを参考にした」とシネフィルぶりを披露しました。

映画も監督も不思議な空気!?

続いて上映されたのは『替え玉の男と女』。仕事で腰骨を折って以来、自堕落な生活を送るタレントと、彼女の周りにいるちょっと不思議な人々を描いたオフビート・コメディー。

上映後に登壇したのは青木伸和監督。MCの島から「襟が曲がっていますよ」とツッコまれると、「最初からやり直します」と、何度も挨拶をやり直そうとする青木監督に客席から笑いが漏れます。

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本作を撮るきっかけを聞かれた青木監督は、「文化庁の助成金を“怪しい…”と思いつつ申請したら取れたんです」と要領を得ない回答に。すると、客席から登場した主演(企画も兼任)の津山愛理が「映画を作る上でまず青木監督に声をかけて、(一緒に)いろんな案を出し合いました。それで、私が実際に釣りで骨折してコルセットしていたことがあって、それを物語に。だからフィクションでありノンフィクションでもあります」と経緯を分かりやすく説明してくれました。

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続いて登場したのは主役のマネージャー役を演じた林淳一郎。「タイトルの面白さに惹かれてお受けしました」と話すと、青木監督は「ギャラに惹かれてじゃないの?」と失礼なツッコミが入り、林さんは「違います!」と否定する一幕も。映画同様、不思議な空気が舞台に広がります。

出典: FANY マガジン
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中江裕司監督は「こんなダメな青木監督をありがとうございました」と言いつつ、2017年開催の「クリエイターズ・ファクトリー」に出品された青木監督の『お歳暮のハムのひも』について「なかなかのストーリーテラーで、可能性を感じました」と、その才能を評価します。青木監督が持つ独自の感性については「(監督作の)独特の感じが面白い。ダメな感じ、不思議な感じが好きで」(林)、「素晴らしい監督だなと」と、全員一致で認めている様子。

さらに、客席にいた芸人・俳優・監督の板尾創路(「クリエイターズ・ファクトリー」審査員)も「カメラワークとか、演出とか、良い意味でジワーッとした味わいがある。あなたの映画という感じがした。器用に撮れる人よりは、シュッと抜けて大監督になるかもしれない」と評しました。

島ぜんぶでお~きな祭 第15回沖縄国際映画祭は2023年4月15日(土)、16日(日)の2日間、開催されました。

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ユーフラジー=モンタージュ

キャスト:本間実里、小室蓮、沖田美月、TASEI、横田裕久、へいとー、井本隆太、大野裕貴
監督:大河聡
公開年:2022年

替え玉の男と女

キャスト:津山愛理、手島 曜、杉山英美、林純一郎、森武マイ、高橋真矢香、高橋忠雅、野良杉太
監督・脚本:青木伸和