決勝ファーストラウンド、そして最終決戦と、2回ともトップバッターで登場――そして新世代感ある漫才で第19代M-1王者となった令和ロマン(髙比良くるま、松井ケムリ)。12月24日(日)に開かれた『M-1グランプリ2023』(ABCテレビ・テレビ朝日系)の決勝で、過去最多の8540組に頂点に輝いた気鋭の漫才師は、生放送終了後の優勝会見で冷静に戦況を振り返りました。
高比良「ヤーレンズといい勝負だと思った」
会見場に電話しながら登場したくるまは、いまの率直な気持ちを聞かれると「嬉しいです」とはきはきと簡潔に回答。相方・ケムリに「いや、スポーツ選手じゃないんだから」とツッコまれると、「(最終決戦の票の)最後が(ヤーレンズと)3対3でどっちなのかわからなかったので、いい勝負だと思いました」と冷静に語ります。
一方のケムリは「うれじぃです」と、YouTuberとして活躍する先輩芸人のはいじぃにちなんで、喜びを表現しました。
今回の決勝戦のファイナリストは、優勝した令和ロマンのほか、真空ジェシカ(ガク、川北茂澄)、ダンビラムーチョ(大原優一、原田フニャオ)、くらげ(杉昇、渡辺翔太)、モグライダー(芝大輔、ともしげ)、ヤーレンズ(楢原真樹、出井隼之介)、マユリカ(阪本、中谷)、さや香(新山、石井)、カベポスター(永見大吾、浜田順平)の9組に加えて、敗者復活戦から勝ち上がったシシガシラ(脇田、浜中英昌)の計10組。
今年もMCは今田耕司と上戸彩が担当。審査員は松本人志(ダウンタウン)、礼二(中川家)、塙宣之(ナイツ)、富澤たけし(サンドウィッチマン)、博多大吉(博多華丸・大吉)、山田邦子、そして新たに加わった海原ともこ(海原やすよ ともこ)が務めました。
出番順は例年通り、笑神籤(えみくじ)で決定。ファーストラウンドの得点は下記の通りとなりました。
1:令和ロマン 648点
2:シシガシラ 627点
3:さや香 659点
4:カベポスター 635点
5:マユリカ 645点
6:ヤーレンズ 656点
7:真空ジェシカ 643点
8:ダンビラムーチョ 631点
9:くらげ 620点
10:モグライダー 632点
その結果、さや香、ヤーレンズ、令和ロマンの3組が最終決戦へ。三者三様の漫才を披露し、審査員票を4票獲得した令和ロマンが、初の決勝進出にして見事に優勝を果たしました。
優勝が決まった瞬間、ケムリは目を見開いて驚いた表情を浮かべながら、控えめに小さいガッツポーズを、くるまは何度もうなずきながら小さく手を叩きます。
「いやぁ、嬉しいです! (第1回の)中川家さん以来のトップバッターで優勝できて!」
喜びをこう語るくるまに、礼二は祝福の拍手を送ります。一方、ファーストラウンドのネタ終了後、松本の家を訪れた際に汗臭かったことを暴露されたケムリは、「汗臭くても優勝できるんだということを証明できてよかったです」と笑みを浮かべました。
辞めていった同期のぶんも…
優勝会見で、「ホッとしましたね。僕らが(最後まで)ふわっと生き残っちゃったんで、責任をはたさなきゃと思っていたので優勝できてよかったです」と話したくるま。
「今年は(決勝の日が例年よりも)遅かったのでストレスは溜まっていました。『キングオブコント』が終わってるコント師が飲みに行ってるのをいいなぁって思いながらガマンしてたんです。だから、お酒飲みたいです」
令和ロマンは、NSC(吉本総合芸能学院)東京23期の卒業ライブで優勝し、当初から期待の若手漫才師として注目を集めてきた実力派コンビ。2020年には『NHK新人お笑い大賞』で優勝しますが、コロナ禍の緊急事態宣言で主戦場である劇場が一時休館となるなど、思い描いていた道が閉ざされてしまったような焦燥感があったといいます。
「僕ら若手はテレビに出てないんで、全員しんどかったんですよ。僕らはNHKで優勝したおかげでギリギリ食えてましたけど、いっぱい辞めちゃった同期もいましたし、見えづらいとは思いますけど、ある程度の思いはありました。その(辞めた同期の)ぶんも頑張らなきゃな、と思ってました」
そう振り返るくるまの言葉を受けて、ケムリも「昨年、同期のヨネダ2000が決勝に行ってて。芸歴6年目で2組が決勝に行ってるってすごいことなので、少しでも箔のついた同期でいられるようにという思いもあった」と同期への思いを語ります。
昨年の敗者復活戦で2位と大きな爪痕を残したことから、今年は全国各地の劇場に出演。くるまは「いままでは東京でやるだけだったんですけど、いろんな劇場でやることで幅広く考えられてよかった」と語りながら、今回の決勝で披露した2本についてこう振り返りました。
「何本かスタンバイしておいて、何番手だったら何をやろうかな、みたいなことをなんとなく決めてたんですけど、トップバッターだったので後ろの人に勢いがつくような、お客さんに話しかけるようなしゃべくりをやろうと。で、(最終決戦に)残ったときにシンプルな漫才コント、なるべくやさしいやさしいネタを選びました」
「ヤレロマ」が目指していた世界
ともに最終決戦に勝ち残ったヤーレンズは今年1年間、通称“ヤレロマ”として毎月、ツーマンライブを開催してきた戦友です。ケムリは「この2組が決勝に行けたことがすごいことだと思っていて。ライブでも、(M-1決勝を)実質ヤレロマにしてやろうぜと約束してたので、これが僕たちの目指した世界です」と胸を張ります。
くるまも、しみじみとこう語りました。
「ヤーレンズさんは1年目くらいからお世話になっていて。僕らって、ありがたいことに『M-1』で早めに結果が出てたんで(芸歴1年目にワイルドカード枠で準決勝進出)、出てるライブで一緒になるのが先輩ばかりで。ウエストランドさん、錦鯉さん、モグライダーさん……吉本以外の事務所の先輩にもかわいがっていただいてたんです。なので、そういう方と最後に戦いたいという気持ちがいちばんあったんで、ヤーレンズさんがウケてるときに“うわぁ、ヤレロマだ”と思って。そのときが、いちばん感動しましたね」
決勝前のインタビューで「優勝賞金1000万円を全額、くるまに渡す」と話していたケムリですが、その真偽を聞かれると「ラジオでそういう話になって、相方が全額くれたらめっちゃ頑張る、くれないと頑張らないと言われたので、あげると約束したんです」と経緯を説明。そのうえで、「正直、それって優勝できると思っていないから言ってる部分もちょっとはあるわけです。どうせならないだろうと思ってるんです」と当時の心情を語ると、くるまは顔をしかめて「こいつ……」と悪態をつきます。
それでも、ケムリが「その“賭け”に負けた僕が悪いんで、あげます」と言い切ると、くるまは「よっしゃー! 逆転しました! すげー! マジ?」と大喜び。そんな相方を見ながら、ケムリは改めてこう語るのでした。
「ネタ選びも戦略も全部くるまがやってくれてる。今回の優勝もくるまがいなきゃ絶対にできないし、くるまには本当に感謝してるので、500万なんて……。チャンピオンこそが素晴らしい肩書きですから、僕は全額あげることなんてなんとも思わない。けど、その代わり素晴らしい使い方をしてほしい。無駄遣いはしないでほしい」
ケムリに「どうやって使うの? 1000万」と聞かれたくるまは「さっきねぇ、僕は有馬記念(同日開催された競馬のG1レース)でソールオリエンスに100万円ぶち込んで負けてるんです」と静かに語り出し、「本当に散りますね。体からどんどん温度が消えていきました。そのおかげで優勝できたといっても過言ではない。だから無事、この900万円を持って帰りたいと思います」と飄々と説明。ケムリが「100万(すでに)減っちゃってるんだよなぁ」と嘆くと、ドッと笑いが起こりました。
今後について、「怒られないんだったら、来年も(M-1に)出たい」と語ったくるま。「出たいですよぉ。(ファーストステージで)3位ですもん。1位で終わってないんですもん。670点くらい出したいですよ! できることなら。また来年も出たいです!」と今回の結果に満足していない様子です。
漫才師としてさらなる高みを目指して、来年も“ディフェンディング・チャンピオン”としてM-1に参戦するのか――彼らの活躍と動向に注目です。