浅野忠信「沖縄に恩返しするつもりが…」ガレッジセール・ゴリ監督最新作で主演2人が見せた“心を揺さぶる演技”

今年で最後の開催となった「島ぜんぶでお~きな祭 第16回沖縄国際映画祭」が4月20日(土)、21日(日)に開かれ、16年の歴史に幕を下ろしました。最終日には、ガレッジセールのゴリこと照屋年之監督の6年ぶりの長編作品となる『かなさんどー』の制作発表イベントが開催。2025年新春に沖縄先行、そして全国順次公開される予定のこの映画について、そして舞台となった沖縄への思いについて、照屋監督と、作品で沖縄の夫婦を演じた主演の浅野忠信、堀内敬子に話を伺いました。

出典: FANY マガジン
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今年の映画祭では、国内外を含む25プログラム(31作品)の映画上映と舞台挨拶や制作発表イベントなどを開催。そのほか、お笑いライブや沖縄の未来を考えるソーシャルビジネスコンテスト、そして映画祭を締めくくる音楽ライブ「Laugh&Peace LIVE」など盛りだくさんの内容で最後まで盛り上がりました。

「キャスティングは運命だと思う」

映画『かなさんどー』は照屋監督の故郷である沖縄を舞台に、豊かな風土と文化、そして監督が持つ独自の死生観が織りなす「寛容のこころ」があふれるヒューマンドラマ。最愛の母を亡くした娘の美花と、父の悟の再生を丁寧に描いています。

最終日に開催された恒例のレッドカーペットでは、照屋監督、主演の松田るか、堀内敬子、浅野忠信らが華やかな衣装でカーペットを歩き、沿道に集まった多くの観客たちに手を振ったり、サインに応じたりして触れ合いを楽しみました。

――浅野さんは沖縄国際映画祭に初参加ということですが、どうでしたか?

浅野 海外の映画祭などでレッドカーペットを歩かせてもらったことはありますが、こういう環境は初めてだなと思いました。すごく天気がいいなかで、あれだけ大勢の人が集まって、みんなと触れあえて……。映画祭というより、みんなでお祭りをしている感じがしました。

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――照屋監督は6年ぶりの長編映画となりますが、この作品をつくることになったきっかけを教えてください。

照屋 僕自身は、毎年でも撮りたいんです。だけど、コロナ禍で長い間撮れなかった。構想はすでにあって、本も一度できあがっていました。僕の作品はいつも沖縄が舞台なのですが、あの時期に出演者もスタッフも東京から沖縄に連れていくことはできなくて……。
なかなか撮影ができないなか、今作で制作総指揮を務めてくださった福田淳さんが、以前撮った『洗骨』(2019公開)に感銘を受けたからと対談をオファーしてくれたんです。その対談が終わったあとに、「僕が資金を出せば、映画って撮れるものですか」と言ってくださって。いっさい口は出さないので、なんでも撮っていいよって、そんなプロデューサーいないですよ。

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それで、もともと準備していた本はありましたが、そのまま「じゃあこれで」というのが悔しかった。以前、満島ひかりさん主演で撮った『演じる女』を長編にしてみたいと思っていたので、もう一度、一から台本を書き始めました。さらにキャスティングの段階では、皆さんに快く出演をOKしていただきました。
僕、キャスティングって、運命だと思っているんですよ。この場をお借りして、おふたりには本当に感謝したいです。観てもらうとわかりますが、(2人が)めちゃくちゃいいんですよ! 現場では、難しいシーンも努力して粘ってくださいましたし。

堀内「まったく迷いがない演出だった」

――監督から大絶賛ですが、浅野さん、堀内さんは、照屋監督の演出を受けていかがでしたか?

浅野 監督も演じることがありますから、われわれの気持ちをよく理解してくれていたと思いましたし、監督だけやっていたら、こういう言葉は出てこないだろうなと感じることが多々ありました。(撮影中は)素直に役のことだけを考えていられる時間だったと思います。

堀内 監督はすごく明確に考えていらっしゃるので、まったく迷いがない演出でした。まわりのスタッフも、それをよく理解されている方々が集まっていて、すべてのシーン、一つひとつのセリフも、監督の明確な指示に沿って、みんなでつくりあげているという感じで、ひとつもブレることはありませんでした。もちろん、うまくいかないこともありますが、そこもしっかりケアして、サポートしてくださる。演じる私たちのすぐそばにスタッフの皆さんがいるような、素敵な座組だなと思いました。

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照屋 スタッフさんたちは、なんとか浅野さんと堀内さんと写真を撮るタイミングを図っていたんですよ(笑)。ずっとガマンして、最後に「イェーイ!」って記念撮影していました。

自分には演じるくらいしか…

――沖縄での撮影はどうでしたか?

浅野 沖縄がすごく好きで、毎年、沖縄に来ては癒されてを繰り返しているんです。「俺、沖縄に何か恩返しをしなきゃいけない気がする」って話しながらも、何をすればいいのかわからないから、たとえば沖縄の放送局が制作する番組で、僕ができる役とかないかなと考えていました。

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照屋 そんなこと言わないほうがいいですよ! すぐにオファーが殺到しますよ。「浅野さん、出てくれるってよー!」って。

浅野 いやいや(笑)。でも、自分には演じるくらいしかできないし……と思っていたときに、ドンピシャのタイミングでこのお話をいただいて、思わず「きたよ!」って(笑)。撮影期間は監督を含め、沖縄のスタッフの方々とずっと一緒に過ごさせてもらいましたが、皆さん本当に人柄が素晴らしくて、たくさん助けてもらいました。こうして映画祭にも呼んでもらって、恩返しどころか、ずっと助けてもらいながら癒されている感じですね。

照屋 浅野さんの素晴らしい演技こそが恩返しです!

堀内 私のマネージャーが沖縄出身で、「堀内さん、これ沖縄に行けますよ! 沖縄国際映画祭にも出ちゃうかもしれませんよ!」って大喜びでした。思わず「自分が帰りたいだけでしょ」って言っちゃいました(笑)。
この作品に絶対に参加したいとお請けしたものの、沖縄の人を演じるのはかなりの難関でした。沖縄の地に根付いた感じを出すのが難しかったのですが、本当に温かい沖縄のスタッフの方々に囲まれて、皆さんを観ながら演じられて、すごく助けてもらって……。やっぱり沖縄が大好きだと思いました。

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粘りに粘った「泣きの演技」

――照屋監督から見て、堀内さん、浅野さんが演じる沖縄の夫婦はいかがでしたか?

照屋 浅野さんはカッコいい役どころが多いと思うのですが、今回演じてもらった「悟」は本当に情けないんですよ。調子はいいし、娘に頭上がらなくてビビっているし。だから、新鮮な浅野さんをこの作品で観てもらえるんじゃないかなと思っています。
おふたりは、ご自身のなかに役がそのまま入ってくるのがお仕事なので、浅野さんは本当に女遊びをしていそうなお父さんを演じるし、堀内さんには、いろいろなことに耐えながらも、ニコニコと笑顔で家庭を支える沖縄のおかあを優しく演じていただけて、もう本物の沖縄の夫婦でした。カットをかけるたびに、ありがたい気持ちでいっぱいでしたね。
おふたりが涙を流すシーンでは、撮り方の都合でなかなかうまくいかず、何度も泣いてもらったんですよ。「もう1回泣いてください、もう1回泣いてください」と言いながら、いつか怒り出すんじゃないかと僕もスタッフも怯えていました。でも、おふたりともまったく面倒くさがらず、ムッとすることもなく、毎回真剣に「もう1回頑張ります」って言ってくださって……。

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泣くのって苦しいと思うんですよ。それを何度も諦めずにやっていただいたおかげで、観る人の心を揺さぶる演技になっていた。試写会でも、観た方が大泣きしながら喜んでくださっている様子を見て、おふたりの素晴らしい演技のおかげで、人の心を大きく揺り動かせたんだなと思いました。粘っていただいて、ありがとうございましたって、すごく感謝しましたね。

浅野が映画祭復活のスポンサーに!?

――沖縄国際映画祭のなかで照屋監督の映画づくりが始まり、残念ながら今年で最後となりますが、ご自身の作品と映画祭に思うことはありますか?

照屋 映画を撮るチャンスをくれた吉本にはすごく感謝しています。もう14本も撮らせてもらっていて、この映画祭で、監督としての経験を積ませていただきました。今年で終わってしまうのは悲しいですが、僕の作品づくりは続きます。なので、いずれ沖縄国際映画祭が復活することになったら、そのときは浅野さんが資金を提供してくれると言ったり、言わなかったりしていました。あとで個別に聞いてみようと思います(笑)。

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――最後に、作品を楽しみにしている皆さんへ監督からメッセージをお願いします。

照屋 みんな、毎日を明るく過ごしていますが、心の中を覗いたら、親子関係がよくなかったり、兄弟でモメていたり、会社や学校でまわりの人とうまくいかなかったり……。すべての人間関係において問題がないという人なんていないじゃないですか。そんななかで、“許し”っていうタイミングが、いつくるかだと思うんです。誰かを一生許さないのか、許すのか、許すならどのタイミングなのか。そういうことを考えるきっかけになればいいなって。
“許し”は、僕の根底に流れているテーマです。どんなときに人は人を許せるのか。今作では“許しというさよなら”っていうんですかね、そういうものが描けたんじゃないかと思っています。共感してもらえる部分も多いと思うので、たくさんの方に楽しんでほしいですね。

出典: FANY マガジン
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映画概要

『かなさんどー』
監督/脚本:照屋年之
出演:松田るか  堀内敬子  浅野忠信
上田真弓  Kジャージ  松田しょう  新本奨  比嘉憲吾  真栄平仁  喜舎場泉
金城博之  岩田勇人  さきはまっくす  しおやんダイバー  カシスオレンジ仲本  A16
製作総指揮:福田淳
製作:「かなさんどー」製作委員会 (スピーディ、吉本興業)
製作幹事:スピーディ
制作プロダクション:キリシマ1945、鳥越事務所
配給:パルコ
©「かなさんどー」製作委員会
2025 年新春沖縄先⾏、全国順次公開予定

開催概要

『島ぜんぶでおーきな祭 第16回沖縄国際映画祭』
(英語表記 16th OKINAWA INTERNATIONAL MOVIE FESTIVAL)
開催期間:2024年 4月20日(土)~21日(日)
開催場所:
那覇市 国際通り/那覇文化芸術劇場なはーと/パレットくもじ前交通広場
北中城村 イオンモール沖縄ライカム 
沖縄市 シアタードーナツ ほか
主催:沖縄国際映画祭実行委員会
運営:株式会社よしもとラフ&ピース
実施コンテンツ:レッドカーペット、映画作品上映、ステージイベント(お笑い、音楽、 ダンス等)、ソーシャルビジネスコンテスト ほか